2019年に読んだ本の一言感想(電子本編)

Hiroki Kaneko
6 min readDec 8, 2019

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知ってるつもり 無知の科学/スティーブン・スローマンほか著

ほとんどの人は、水洗トイレやファスナーの仕組みを緻密に説明できないのに、それを知っていると言い張る。この「説明深度の錯覚」が偏見に繋がるのでは。人間の脳のRAM容量がスマホにも満たない事実があり、人間はその対象について何も知らなくても知った気になっているのは脳のRAM節約である(またはクルツバンの言うモジュール仮説によると「分かった気になるモジュール」と「真実を追求モジュール」を連絡する線が無いため、なぜ分かった気になっていたのか理論立てて説明できない、というところか)。
対立する意見を持つ2陣営が、それぞれの事実のみを数え上げれば相互理解に繋がるのかもしれない。

予想どおりに不合理/ダン・アリエリー著

行動経済学。「このような実験から人間はこのような考えのパターンがあると分かった」という例が山のように出てくる、というより、仮説を証明するための実験の仕組みが延々と書かれるので、行動経済学を大学で勉強しているL.Hさん(私の知り合い)は必読の書だと思うけど私には実験の仕組みのところは少々退屈に感じられた。
この本を読んで、人間個人は自分で考えているようで、実は脳の命ずるままに動いているだけなのだと分かる。だとすれば、どのような制度があれば大勢の人間は幸せに暮らせるのか?私はそれは「峠道のガードレール」のようなものになるだろうと思っている。車で峠道を走る際、ガードレールはあるものの、ドライバーは自分の車は自分で運転していると感じている(やらされ感が無い)。しかし操作ミスなどで谷に落ちるリスクを、ガードレールは防いでくれている。制度はこのようにあるべきでは?もし「俺が何をしようと自由だ!」と言って、ガードレールを自ら破壊して谷底に突っ込んでいく奴がいたとしたら、それは仕方がない。
本書で言えば「使いすぎを警告してくれるクレジットカード」などは良いアイディアだと思ったが、これではクレジット会社の売り上げが下がるというので採用されなかったようだ。ひどい。

なぜ今、仏教なのか 瞑想・マインドフルネス・悟りの科学/ロバート・ライト著

坊主は仏教の信者なので批判的に仏教を眺められない。そこでアメリカ南部のキリスト教徒の家に生まれた著者が一週間の瞑想合宿を通じて仏教を解説する。「瞑想をして悟ったということはない。しかしスーパーのレジ待ちで、前の客が財布から金を出すのに手間取っていても怒らなくなった。このまま瞑想を続ければ、前の客が財布から小銭をバラ撒いたとしても怒らなくなるだろう」と。私にはこの辺が妥当な感想に感じられる。本当は頭が混乱するぐらい難しい本。著者はアメリカ人として、アメリカ国内および国際社会の分裂を危惧しており、「ヴィパッサナー(気付き)瞑想」により他者を思いやる心を育めば、それが世界の平和に繋がるのではないか、とも言っている。「スーパーで並ぶ前の客にイライラする」から随分壮大な話になってきたが、著者の優しい心が分かる。
そして今、著者はアメリカのキリスト教系大学で仏教を研究しているそうだ。キリスト教系大学が仏教の研究に予算を出す!これがアメリカ・アカデミアの懐の深さだ!

父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。/ヤニス・バルファキス著

景気の循環がよく分かる。古典経済入門なのか?と思ったけど、比較優位の原則とかは出てこないし、著者が「格差」問題を危惧しているのは分かる。しかし問題は格差ではなく、貧困なのでは?下が生きるのに十分な収入があれば、上がどれだけ稼ごうが文句は無いのでは?というか、下が家と食料と医療と教育を受けられるならお前ら金持ちはどこまでも金を溜め込んでいい、それが交換条件だ!ぐらいは言ってほしかった。貧困問題の原因を「格差」だとしてしまうと、その解決策は「平等」となり、ちょっと違うかな、と思う。平等は多分、実現不可能な目標であり、「上を押さえつけるより下を上げるのが先」だろう。上を押さえれば下が上がるのか?上が更に上に行っても、同時に下も上がるというのは不可能なのか?可能だろう。詳しくはFACTFULNESSを読もう。

格調高くない本

Amazonレビューで「とにかく下品」と書いた皆様、あなた達は正しい。

とにかく下品です。
読んでいて不愉快な展開が多い。
女性が性的な意味で不幸になるストーリーが古き良き田舎を描いてると言えるのでしょうか。
これがこの作者の作風なのだから、気に食わなければ読まなければ良いと言われればそこまでですが、描かれた時代を考えてもやはり酷いとしか言いようがないです。
自分がフェミニストかそうでないか以前の問題かと思います。
これが面白いと思う方には申し訳ないですが自分は嫌いな作品です。
Amazonレビューより

正しいです。そのとおりです。この漫画は下品で、情緒もクソもありません。絵も、これがプロの絵だと言われたら、今どきの小学校5年生にも笑われるというか今どきの小学校5年生の方が上手い(なぜなんだ?これが「10年ごとにIQが上がる」フリン効果なのか?)。
こんな下品な時代に生きていない今の自分に感謝し、サウダーデ的な郷愁も少し感じる漫画。もちろん「’80年代はこんなのではなかった。これはオッサンの目から見た’80年代であり、そんなものはどこにも存在しなかった」と言えば、それもそのとおり。でも惹かれる。九鬼谷温泉を再現したテーマパークとかがあれば行ってしまいそうだ。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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