この期待はずれのエッセイ集を楽しく読む方法を発見した:21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考

Hiroki Kaneko
5 min readAug 14, 2020

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わかっちゃいたけど…

著者の2つ前の本である「サピエンス全史」で「人類の歴史は虚構を共有することにより発展した」と斬新な人類史観を提示したのだが、続く「ホモ・デウス」で人類の未来を予想するも、AIだのビッグデータだのといった中身のないバズワードの列挙に「あれ?このオッサン、歴史学者だけあって技術音痴ゆえにテクノロジーの意味もわからずSFみたいな事言ってるぞ」と半ば白けつつも所々が楽しく、しかし著者の頭の中の引き出しはそう多くはないのだと分かってしまった気もした。
最新刊の「21 Lessons」は読んでみたいと思っていた。しかしなあ、つまらないと分かっているものに2000円以上出してよいのか…と“こうたやめた音頭”を踊っていたら、きのう暇にまかせてKindle版を買ってしまった。
まだ半分も読んでいないが、やはり著者の引き出しは前2作で終わりであり、今回もその繰り返しに過ぎなかった。こんな本に推薦文を書いたビル・ゲイツは、私の中で「あまり信用できない書評家」ということになった。

ゲイツさん、あなた技術音痴でしたっけ?

あなたの詳細は忘れましたが、あなたが慈善家・書評家になる前は何か巨大テック企業の創業者ではなかったのですか?そんなあなたが「AIにより未来の人間は失業する」などと中身のないことを書いた本を読んだら、感想は「プゲラファックと言わざるを得ない」だけではないのですか?
彼が「AI」と漠然と書いているのは、時にレコメンドエンジンで応用されているような古典AIの場合もあれば、なんの但し書きもなくいきなりそのAIなる文言がディープラーニングを指す言葉になったりと、「あ、こいつ分かってないな」とすぐに気づくのでは?

「AIはあなたよりあなたの事をよく知っている。これから好きになる曲も、恋人もすべてAIが決める」と言われてもなあ。単なるレコメンドエンジンによる検索結果を見ただけで、そんな大層なことかね?と感じた。

と思えば彼の言う“AI”は、ディープラーニングを指す言葉に早変わりする。しかしあれは何にでも応用できる魔法の技術でしたっけ?確かにこの分野の発展により、例えば車載カメラで前の車や人を認識して、ドライバーが気づくより前にブレーキをかけられれば交通事故死亡者は減ることでしょう。バンザイ!
CTだかMRIだかの写真を大量に処理させれば、癌などの病気の早期発見になり、病気で死ぬ人が減るでしょう。バンザイ!

おわり。

それ以外にこの技術が応用できる場所ってありましたっけ?あー、音声認識とか手書き文字認識ですか?でもあれって何十年前からある古典AIでありディープラーニングと関係ありましたっけ?OCRやらの技術って30年前からあるし、あれも古典AIの応用分野だと思いましたが、最近はなにか技術革新があったのですか?(あるかもしれないが知らない)

たったこれだけだ。技術者が技術音痴な金持ちを騙して、金を巻き上げて世界中で開発しても、交通事故死亡者が減って、病気の早期発見になるだけだ(それでもありがたいことだけど)。世界中の頭が良いやつが頭をひねってひねって、応用分野がたったこれだけだ。

これで、これで将来大量の失業者が出るのですか?業務が自動化されれば事務職が減ると。へえ、某役所のエクセルファイル、ファイル名+日付でどれが最新だかよくわからないみたいな運用してますけど、早くそうなるといいですね。なるわけねえんだ。「エクセルのマクロが事務員から仕事を奪う」と言っているのと同じだ。

なんか、コンピューターとコードがどのような仕組みで動いているのか全くわからないSFファンの著者が、SFめいた未来像を書かれても、ちょっとでも技術に明るい人間ならそんな事が起こりそうにもないと気づくんじゃないか。著者、一応大学教授なのだから、同じ大学でコンピューター科学の研究をしている人に「こんな未来ってありえますかねえ?」などと聞けないのだろうか?専門家なら「ンな訳ねえだろアホか」と即答されるだろうに。

坊主が書いたSFの本だと思えば面白い

前著のレビューで私は「彼が仏教に傾倒したのは、自分が同性愛者であるとの若い頃の悩みの最中に坊主に出会い、その坊主が<あなたが同性愛者なのは前世の因縁でありあなたが悪いわけではない>とでも言ったのではないか」と書いたが、真実はそうではなかった。本書で明らかになるのだけど、イギリスの名門大学に留学中、友人のすすめで瞑想合宿に参加してそれ以来ハマったとのことだった。

彼が世界をどのように見ているのかについては、この若い頃に出会った仏教思想とSF映画が混ぜ合わされた世界観の本だと思えば、このエッセイ集も楽しめるのではないか。実際、そう思ってこの本を読んだら結構楽しめた。

ハラリの本について

次の本が出たら図書館で借ります。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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