ぼくのゆめはかふぇのけいえいでーす(1)

Hiroki Kaneko
12 min readAug 16, 2019

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Photo by The Creative Exchange on Unsplash

カフェをやりたいんです

などと言うと、いかにも自分が良いように生活したいだけなんだろう、この考えなし、脱サラしてペンションだかカフェだかダイビングショップをやりたいやつなんて5億人くらいいるぞ、と思われそうなので言い出しにくいのですが。金なしコネなし経験なしの素人が上記写真のような大型店舗など作れるはずもなく。世に数多のカフェから消費者がアンタの店を選ぶ理由など無い、とツッコまれてこの計画は頓挫、となるのがよくある話でしょう。

10年前のスタープログラマはどこへ行った?

確かInfoQだと思ったのですが「キャリア10年以上のプログラマーは今どうしているのか」のような内容の記事を見かけて(さっき検索したけど記事見つからず)、その中で、Spring FrameworkというJava野郎にはおなじみのフレームワークを作っていた人はどこへ行ったのかと探したら、今はレストラン経営者になっていた、といった内容でした。Springのヒーローといえばロッド・ジョンソンですが、彼じゃないよ。ロッド・ジョンソンというと何故か私は身長2mの黒人アスリートを思い浮かべるのですが、写真を見たら全然違った。とにかくプログラマーとしてのキャリアを継続しているわけではない、という事が自分にとって衝撃的だった。日本では昔から「プログラマー35歳定年説」などと言われているが、それは単に社内で偉くなって管理職になるか、業界を去るだけでプログラマーのポジションのまま収入が上がるキャリアパスが用意されていなかったというだけで。しかしこんな事を続けて何になるのか、とは思う。無知な金持ちから金をだまし取ろうとする詐欺師が「これからはエーアイでビッグ・データですよ旦那!」と言ったり、技術ブログの自己紹介がプログラミング言語などをスラッシュで区切るだけ(例:Java/AI/BigData)で、それがどうした、「それらの技術を私は憎んでいます」という意味なのか?とか、「機械学習に興味があります」と言っても、周囲が騒いでいるからそのキーワードが聞こえてきているだけだろうがボケ、と思うなど。本当に興味があるやつはハイプ・サイクルの初期の時に気づいてるぞ。
誰かが最初に始めたら、もう真似してサル山の一員になろうと必死なんだから、私はこのサル山には馴染めそうにもない。

ロッド・ジョンソン

逆転の発想:客に長居されると利益が減るのではなく、長居すると利益が増える

私は以前から、喫茶店でコーヒー1杯で粘る度に店には申し訳ないと思っていた。飲食店にとって客の回転率というのは利益に直結する大問題で、コーヒー1杯で長時間粘られたら商売上がったりなのが喫茶店というものだが、では逆に長居してもらえばもらえる程、店の利益になるような仕組みがあったら?客にとっても堂々と長居できるというものだし、良いんじゃないか?なんとなく時間制カフェが良いんじゃないかとぼんやりと考えていた。しかし1時間単位制だったとしても、カラオケ屋のように1時間過ぎたら店員が客のところへ行って「お客様、そろそろお時間ですが…」と言われて追い出されるのでは客も気分が悪い。どうすれば…。私はこの問題を解決することができなかったが、ある日、BBCニュースを見て衝撃を受けた。私がスタックしていた悩みなど、どこかの誰かが、とうの昔に解決済みだったからだ。

私の抱える問題は既にヨーロッパで解決済みだった

Ziferblat is an “anti-café” chain where customers pay per minute for the time spent in the venue.[1][2]Decorated in the style of a living room, guests clock in and out at the desk upon entry and are encouraged to treat the space like home, with food and drink being free of charge. Typically, the public “Sitting Room” space includes boardgames, newspapers, Wi-Fi, a mixture of soft and hard furnishings, a piano, a library and craft supplies.[3]
Wikipediaより

数年前にモスクワで詩人のグループが始めたらしい。皆で集まる場所がほしかったので、代表者が家を借りて、利用者は利用した時間分だけ家賃を負担する。それが詩人のグループ外にも広がって、今ではロシア以外にも旧ソ連圏、東欧、イギリスにもフランチャイズを持っているようだ。フランチャイズのうち、ネット上で一番気を吐いているのはイギリスの数店であり、それらの活動は観測可能だとしても、フランチャイズ本部のモスクワ店などは、ネット上からは観測不可能。かろうじてサンクトペテルブルク店がFacebookで頻繁に記事を更新しているくらいか。

ネット上から観測可能な日本語記事

日本語記事としては、Gigazineのいつもの匿名記事が見つかった。私はこのような匿名記事を見て最初に思うのは「で、お前誰?」であり、名前も明かせないような奴が書く文章などは絶対に信用してはならないネットリテラシーとして小学校で教えたほうがいいんじゃないかと思っている。偽ニュースが問題だというのなら、対策は記事そのものを削除することではなく、そのような匿名記事は信憑性など何もなく、読むに値しないと認識するところではないかと思う。なので、匿名記事やよく分からんアカウントのTwitterの呟きに接した際は「何で名前も明かせないの?警察から逃げてるの?」と思って無視するようにしよう。閑話休題。

ジファーブラット
いとうあさこのミステリーツアー。いとうあさこは客によって値段が変わるお店を調査。ジファーブラットは滞在時間によって値段が変わるお店で、お客が洗い物もするセルフサービスで人件費が削減されている。平均1人1時間半の滞在で540円となっている。いとうあさこはスタッフと食事をして、1人70円となった。

日本のテレビ番組の取材もあったようだ。BBCのビデオでも紹介されているが、「お客が洗い物もするセルフサービスで人件費が削減されている」というところに注目した。牛丼店を1人で切り盛りする「ワンオペ」という過酷な労働が数年前に問題になったが、完全セルフサービスの意識高い系カフェにすればワンオペも苦にならず、牛丼店のようなモンスター客の多い劣悪な環境にもならず、人件費も節約できる。すなわち黒字化、店が続く、のではないか?と感じた。ちなみにZiferblatの日本語表記が「ジファーブラット」となっているが、私はBBC日本語ニュースの通り「ジファブラット」と表記する。

件のBBCニュース

・客が過ごした時間を1分単位で利用料金とする(よって店側から客へチェックアウトを促さない)
・店内のすべての設備、すなわちWiFi、ボードゲーム、本、飲み物食べ物まで飲み放題、食べ放題。「店内設備すべて無料。時間だけ有料」
・”anti-cafe”は「反カフェ」ではなく「カフェにあらず」とでも訳すべきか

飲み放題食べ放題なら客もお得だと思うだろうし、コンセプトも明快だ。
日本の喫茶店などで時々見られる、クッション無しの椅子というのは長時間座っていると、お尻が痛くなってしまう。これは長居をさせないための工夫でもあろうが、pay-per-minuteの店では、すべての労力、情熱を「客に長時間、快適に居てもらうため、快適な環境づくり」のために注ぐのだ。座り心地の良いソファ、美味しいコーヒー、光速Wi-Fiなど、1分でも長く店内に居てもらえばそれだけ儲けになる。これは「早く追い出す方法を考える」商売上手の経営者より、余程良いアイディア、客も経営者も双方良し、の素晴らしいアイディアなのでは?

日本の時間貸し商売としてはカラオケ屋やネットカフェ、漫画喫茶などがあるが、それには最低料金というものが設定されているし、利益率を上げるために飲食は別料金だ。そこに「最低料金なし」のカフェがあれば人々の耳目を集めるのではないか?と思った。

取材者「この仕組みを悪用する人もいるんじゃないですか?ポケットには20ペンスしかない。ダッシュで入ってコーヒーやケーキを貪って出ていく、そんな人いますか?」

店長「いますし、全然構いません。それを悪用と言って良いのかよくわかりません。最低料金を設定していないので、ここへ来て人間としての限界に挑戦してもらっても構いません」
上記BBCニュースより

その態度が素晴らしい。商売人は損して得取れという。割れ窓理論と言うべきか、文句を言わせないくらいのオシャレ空間にしておけば、そのような態度は「恥ずかしい」と思わせることが出来る。しかしこのビデオはマンチェスター店であり、ユーラシア大陸の東の果ての更に海を越えた島国に住む私にとって、ヨーロッパの家具を見ると、オシャレだな、とは思うけど現地に住んでいる人にとっては、単なる中古家具売り場のような店内だと思っているのかもしれない。

これは良い。私が解決できなかった問題を既に解決している。コンタクトをとってみるしかない。ここで「良さそうだなー」と思っただけで行動を起こさなければ、10年後、私ではない別の誰かが同じような事をして成功しているのを傍目で見ながら「私のほうが先に思いついたんだぞ!」と嫉妬するだろう。しかし「思いついた」と「実行に移した」では、天と地ほどの差がある。

フランチャイジーになりたいと申し出る

Facebook内のZiferblat Worldwideアカウントから、フランチャイジーになりたいと申し出た。それが2017年の12月。

(6ヶ月経過)

2018年5月に返事が来た!いや、長いよ!本当にここ大丈夫なのか?フランチャイズ担当者(本部はモスクワ)によれば、まず履歴書を送れという。英語の履歴書なんて書いたこともなかったが、下手くそな英語で精一杯アピールした。未経験の脱サラ人間としては、ここで前歴を活かして向こうの担当者の興味を惹くように、「滞在時間自動計算Webアプリ」を作った。おまけにSquareリーダーと連携して、クレジットカード決済まで出来るMVPを作った:

チェックアウト画面
Squareリーダーで決済

使った技術スタックはRails5とjQueryの迷宮。とにかく動けばよかったのでメンテナンス不可能なJavaScriptを書いてしまった。

先方はこのWebアプリについてはガン無視。BBCのビデオではどのように利用時間を計算しているか分からなかったけど、レセプションで何やらPCに入力していたところを見ると、おおかたExcelにでも時間を入力しているのだろうと想像する。

私のMVPをガン無視したフランチャイズ担当者は「私達は次のステップに進もうと思う。Skypeで面接できないか?」と。英語で面接!しかも相手の顔が見えずに電話だけで?これは相当難しい。私の事情を知る友人(ドイツ人、ベルリン在住)に協力してもらい、神奈川−モスクワ−ベルリンを結ぶ3者会議がSkype上で行われた。何を話したのかはよく覚えていない。おそらく重要なことは全部ドイツ人の友人が代わりに話した。ドイツ人の友人が英語でうまいことやってくれたのだろう。

第2回へ続く。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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