また買ってしまったHHKBと特殊キーボードコミュニティ

Hiroki Kaneko
Feb 1, 2025

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HHKB Classicが今週末のみ、Amazonで-23%引き、更に4.5%ポイント付きだったので、衝動的に購入してしまった。私は過去にHHKBを何台買ったのかよくわからない。前世紀の末頃にPS/2ポートの廉価版であるHHKB Liteを買い、21世紀になってからはLite2を2台くらい買い、最後にProfessionalを買った。それらは知人に譲ったり、壊れたりしたので、その後はHHKBのない生活が10年以上続いていた。その間わたしは「キーボードにこだわる自分がカッコ悪い」と思うようになり、Appleのペラペラのキーボードに無理に慣れてみたり(絶版になったバタフライ式キーは現在のシザー式より良かったと思う)、RealForceに手を出してみたりしていた。しかし私の考えは常に「右手小指でFnキーを押しながら` ? + * キーを矢印キー代わりにしたい」と思い続けていた。

この5年ほど、自作キーボードのブームがあったことをネット上でなんとなく知っていた。しかし私はそれに熱狂することもなく冷めた目で見ていたのだった。その理由というのは、私が「客先から貸されたPCのキーボードでしか仕事をできない」からであり、それを考えると何だか自分が惨めに思えてしまうからだ。

更に最近の作業環境というのは、手元のPCからリモートデスクトップで接続したAmazon Workspaces上のWindowsから接続したLinux、といった環境なので、一体自分がどのキーバインドをすればよいのか混乱してしまい、あまり特殊なキーボードを使えなくなってしまった。

そんなある日、とんでもないキーボードを見かけてしまった。客先会社のある技術者が使っていたそれは、一見するとThinkPadキーボードのようだが、キーレイアウトは昔のThinkPadのように7段であり、ご丁寧にトラックポイントまで付いている。そして、面白いことにキーボードの筐体自体に奥行きがある。Lenovoが今どきこんなものを発売しているのだろうか?帰宅してネットで調べてみると、TEXという台湾をベースにキーボードを作っているメーカーのものだった。

TEXというのは、洒落の分かる人たちの会社のようだった。キーボードの名前もShinobi(忍)、Shura(修羅)、Kodachi(小太刀)と、なにか、昔の日本を舞台にしたゲームに登場する武器のような名前だったからだ。
キーボードの外箱にも「鍵盤補完計画(エヴァンゲリオンのリファレンス)」だとか「迷えば、敗れる」など恐らく意味のない言葉が書かれており、彼らの好きなことを洒落っ気たっぷりにビジネスにしていて、本当に憧れる。

そしてキーキャップセットには、HHKB以外に見たことのない「右シフトキー横のFnキー」にもカスタマイズできるようだった。その他にもアイコンが書かれた、何のためのキーだかよくわからないものがあり、「死」と書かれたキーに至っては、これを押したらキーボードが爆発するのではないかと思うと怖くて押せない。そのような「洒落の分かる人たち」が台湾にいて、かつてのThinkPadキーボードへの、熱烈なラブレターを作成した。私からしたらこんなもの、買うしかないのだけど私が住むこの国の通貨の下落を考えれば、残念ながら予算が足りない。私がいわゆる「高級キーボード」に出せる金額というのは 20,000 JPY が限界であり、「触ってみたら気に入らないかもしれないキーボード」にそれ以上は費やせないのだ。

かつてThinkPadの傑作キーボードを作っていたIBM大和研究所の近くに住む身としては、自分の貧乏(円安も)を呪うしかない。

台湾といえば、以前少し話題になった「40%キーボード」を作ったVortexにも注目している。M0110は、”HHKB Layout”のバージョンもあるからだ。

「弘法筆を選ばず」という言葉がある。達人は道具に依らず傑作を作る、という意味らしい。しかしソフトウェア・エンジニアに関しては、それは真実ではないと感じる:

  1. 私は達人ではない。自分の仕事を効率よくこなせる道具があるならそれを使うべきだ。
  2. 現代の大工に電動ドライバーなどの便利な道具を与えず、鑿(ノミ)と鉋(カンナ)だけで家を建てろ、2週間で、と言ったらどうなる?

私は、少なくともソフトウェア・エンジニアに関しては「筆を選ばない」人間を信用しない。何のこだわりも持たない人間は、何のこだわりもない製品しか作れないと思っている。仏教の公式で言えばこだわりを持つことは苦しみの原因でもあるのだけど、職業に関して私たちは悟りを開きたいわけではない。「とんでもなく素晴らしいものを作りたい」と情熱を持つからには、それを作る苦しみがあるのだ。そのような情熱を持たない人間とは、私は一緒に仕事をしたくない。つまらないだろうから。

キーボードにこだわりを持つエンジニアを私は信用している。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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