もしスパイク・リーが白人に生まれていたら白人至上主義者になったのでは?ビッグイシュー日本版386号
スペシャルインタビュー スパイク・リー
警察からの暴力や差別など、アフリカ系米国人を取り巻く不当な現実を作品に投影させてきたスパイク・リー監督。2015年にはアカデミー名誉賞を受賞、重々しいテーマを軽やかな音楽とユーモアで仕立て上げる独自の手腕で幅広いファンを獲得してきました。最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』を語り、米国の歴史を回顧します。
常々思うのですが、このオッサン、偉いか?
30年ちかく前に彼の映画「マルコムX」を、たしかテレビで見た。ずいぶん長い映画だったので詳細はとっくに忘れてしまったけど、映画に合わせて日本語完訳された「マルコムX自伝」は、図書館で借りて読んだ。学校の成績も良かった黒人少年は「(俺は頭が良いので)将来は医者か弁護士になる」と夢を語ったところ、学校の教師からお前は黒人だから駄目だと言われて何でやねんとなり、グレた。獄中でイスラム教に感化され、娑婆に出て怪しげな新興宗教に入信したがそこの教祖様にも幻滅して、政治活動などをして、殺された、という不幸な男の生涯だった。もしマルコムが白人として生まれていたら、医者か弁護士になったのだろうか?
閑話休題。リーだ。このオッサンの映画についてはどうでもよいのだけど、なにか問題があると「黒人社会のオーソリティー」としてニュースなどに登場し、まくしたてる内容は和製英語で「ポジショントーク」とでも呼ぶべき下らない内容で、例えばBBCがリーにBLM運動についてインタビューをしようものなら「あんたらイギリス人だって黒人奴隷を(略」みたいな事を、すぐ言う。メディアが聞きたいのはそこじゃねえだろ。なんでお前が全アメリカの黒人の代表ヅラして、本人が奴隷貿易をしたわけでも奴隷制を支持しているわけでもないBBCのインタビュアーに説教してるんだよ。ンなモンお前から言われなくてもBBCのエリート・ジャーナリスト連中は、歴史的社会構造的にアメリカの黒人社会が何世代にも渡って不利益を被り続けてきたことなんか全員知ってるっつうの。
↑あと、ビデオ通話に出るときは真正面から照明を当てないと顔が暗くて見えないだろ。映画監督なのに照明も知らないのか?それとも現代アメリカで、黒人に向かって「ライト当てないと顔が暗くて見えないだろ」と言うと黒人差別だとか言われて批判されるのか?くだらない。全人類はビデオ通話の時には自分の顔に照明を当てなきゃならないんだよ。
今回のビッグイシューのインタビューでもリーのポジショントークは変わらず「身内である黒人コミュニティのブラザーシスター(兄弟姉妹)」を身贔屓しているだけだ。その内集団贔屓の態度って右派の民族主義者のそれじゃないのか?もしリーが白人として生まれていたら、下らない白人至上主義者になっていたことだろう。そしてマルコムXの代わりに、南北戦争の南軍のリー将軍の映画を撮っていたことだろう。
人間を肌の色で区別しているのはリーの方だ。彼が黒人を擁護するのは、自分が黒人だからだ。そして白人を支持するときはBLM運動に参加した「私たちの集団のシンパ」であるとディスプレイをした白人に限る。それは単なる内集団贔屓であり、本質的にはホワイトパワーとか言ってOKサインをしている連中と何も変わらない。もし違うというなら、道徳的理論的に、なぜ差別が間違っているのかを語らなければならないが、良く「神の御加護で」とか言っている奴の道徳など自分の頭で考えたものではないだろうから聞くだけ無駄だ。私がインタビュアーなら「神なんていないのに何言ってるのジジイ?」と言ってしまう(「神の御加護で」が英語の慣用句なのは知っています)。
人種差別を乗り越える方策を、彼は何も語っていない。それは「くだらない部族主義を止めよ」だけなのであるが、リーは「俺は黒人部族の側に付くぞ」と言っているだけなので、この問題は解決しない。白人至上主義者が「俺は白人部族の側に付くぞ」とディスプレイしているのと同じだからだ。
「黒人の命も重要だ」運動に対して、「全ての命は重要だ」と言うと、BLM運動の敵で白人至上主義者でトランプ信者ということになるのだという。なぜならそれは「問題を相対化して矮小化」することになるからだという。そうなのか?別に矮小化などしていないと思うけど。
いくら白人至上主義者といえどこの21世紀において「白人の命だけが重要だ」とは、社会通念的にとてもじゃないが言えなくなってしまったので「全ての命は重要だ」と言うのがせいぜい、精一杯のエクスキューズだ。それこそが社会の進歩だ。しかし、つい100年くらい前のアメリカでは「白人の命だけが重要だ」と言ってそれは耳を疑うような差別的セリフではなかったのではないか(特に南部)。少なくとも、声高に叫ばないにしても、白人コミュニティの中では多かれ少なかれ共有されていたのではないか。これは社会が良くなっている、差別が減っていることの現れじゃないか。それは現代に問題がないと言っているのではない。現代は問題だらけだが、昔はもっとあった。
「時代は良い方向に進んでいるのだがそれは一直線ではなく、あちこちで衝突事故を起こしながら走っている酔っぱらいの運転する自動車のようだが、進んでいる方向としては正しい」というような意味のことを言ったのはピンカーだが、残念ながら歴史というのはそういうものらしい。その衝突事故の瞬間だけを見て、歴史は間違った方向へ進んでいると判断するなら、あまりに近視眼的だ。
そんな右派の民族主義者のリーが黒人社会の不利益を解消する方法といえば、口を開けば「格差」だとか、いかにも左派っぽくて、社会問題の複雑さとそれを正しく客観的に認識して対応しようという努力が見られない。右派も左派も、現実を正しく捉えられずにそれぞれ間違った認識でいるバカだとしたら、右派と左派のバカなところだけを煮しめたような、民族主義者であり、「地元のプロバスケットボールチームの黒人選手のブラザー」を贔屓するだけであり、かつ貧困問題の原因は格差だと思っているリーは大馬鹿じゃないのか?なぜこのオッサンが黒人社会のオーソリティーなんだ?こんなやつがオーソリティーだったら「黒人社会はその程度のやつしかいない」と、それこそ差別をしていることになる。
警察による黒人への不当な対応への怒りはもっともだが、だからといって銅像を倒して何になるのか?そのような行為は保守派白人層にとっては脅威に映り、結局トランプに利するだけになるというのが分からないのか?