カフェで友達を作るという許されざる贅沢:ベルリンうわの空

Hiroki Kaneko
Jan 15, 2022

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Photo by Gilly on Unsplash

Amazonが薦めたので買った。たぶん私が、出版社であるイースト・プレスのエッセイ漫画…吾妻ひでおとか、永田カビなどを買っているために推薦されたのだろう。

この絵、オールドMacユーザーから見た第一印象は「イタチョコシステムのラショウみたいな絵だな…」というものだった。ベルリン在住の日本人著者によるエッセイ漫画。現時点で3冊まで出ており、私はAmazonのポイントで1冊目と2冊目を購入した。

1冊目「ベルリンうわの空」は、観光で訪れたベルリンという街が気に入り、ついに住み始めた著者の目から見たベルリン、そして都市論?のようなものが展開される。この尖った個性の絵を見れば作者が一癖も二癖もある性格なのはひと目で分かる。その作者の好みで言えば、東京のような街はせわしなく、広告は攻撃的であり、一方ベルリンは広告も優しげで多様性、包括性のある街なのだそうだ。それについては私はベルリンを訪れたことは無いので良くわからないが、ひとつ疑問に思うのは「好きだからといってその街に住めるの?ビザは?収入は?病気になったら日本の健康保険は海外で通用するの?それとも旅行傷害保険が長期滞在者に対しても有効なの?」というものだ。

ドイツなら、日本国パスポートホルダーというかシェンゲン協定加盟国住民は、180日以内の90日、加盟国に滞在できる。それ以上になるとビザを取らなければならないと思うが、どの種類のビザを取得すれば「なんとなく気に入ったから住みたい」ができるのだろうか?当地の企業に就職して、そちらが労働ビザの手配をしてくれる、という移住ではないのだから当然、労働ビザではないだろう。つまり当地で収入のある労働はできない。漫画の中で語られるのは、よく行くカフェで漫画を描く、というものだ。そしてこの本の連載?が決まるに当たり、日本の出版社の編集者がオランダはアムステルダム(ドイツではなく!)まで行くので落ち合って契約書を交わそう、というものだった。そんなことができるのか?
彼は「ノマド漫画家」とでも言うべきか、そのように仕事を取ってくる場所が離れていると営業も大変だろうに、と思うのだけど。それができるのは営業しなくても出版社から引っ張りだこになるほどの人気作家だけだと私は感じてしまうのだけど、どうだろうか。

住む場所に関して言えば、ドイツなら「金さえあれば/パスポートの期限が有効なら/ビザが有効なら」という条件付きで、どこでも借りられるだろう。なぜベルリンへ行ったことのない私がそのような事を知っているのかというと、ベルリン在住の知り合いがそう言っていたのを聞いたからだ。

外国人だからという理由で部屋を貸さない日本の差別主義大家

他方、ここ日本国では外国人が部屋を借りるとなるとそれはもう大変で、パスポートとかビザとか金が問題なのではなく、以下のような場合に、必ず出くわす。

  1. 保証人をつけろ、さもなくば保証会社に入れ、いや、やはり両方必要だ!
  2. 外国人には貸したくないという大家の存在

これが、我が「美しい国」の美しい商習慣だ!意味がわからん。というか2番目は明確に外国人差別であり、議論の余地はなく許されるものではない。1番目に関しても、外国からやってきたのだから保証人なぞいるわけないじゃないか。というか保証会社は金を払えば保証人の代わりになってくれるのに、なぜ両方が必要なのだ?意味がわからん。大家は「金さえ貰えれば問題ない」筈だろう?家賃保証?クレジットカードで払えばクレジット会社が代わりに支払いを「保証」してくれるのに、クレカ払いを受け付けないのはどこのどいつだ?(以上は私の実体験であり妄想ではない)

金さえあれば信じる/金さえあれば協業する。なんとスマートな仕組みだろうか!この漫画の作者は事あるごとに「昨今の商業主義の行き過ぎ/大企業による富の独占」など左派のお題目っぽい事を書くのだけど、「金を持っていても外国人だから部屋を貸さない」と、どちらがマシなのか?

金は、国籍だろうが宗教だろうが、そのようなしがらみを飛び越して人間同士を結びつける素晴らしい仕組みだ。言ってみれば、金があれば宗教は必要ない。宗教は道徳の仕組みではなく、同じ教義を信じると宣言することで互助会に入れる仕組みだからだ。だから「私はこんなに互助会の決まりを守っている!」と我が身可愛さに周囲の互助会員に「良い会員」である自分をディスプレイしたくて、「背教者を殺せ」とか「名誉殺人」など頑張ってらっしゃるじゃないか!あれは全て自分のためだ。自分が互助会コミュニティで生き延びたい一心の「良い子ちゃんアピール」だ。クソくらえ。

金があるのだから、外国人だろうと火星人だろうと、部屋を貸せよ差別主義者め。「近隣住民とトラブルになるかもしれない」とかだったら店子と大家の 相互評価システムを作ろうぜ。AirBnBが既に実装している。だったら不動産屋なんか全部ぶっ潰してAirBnBだけでいいじゃねえか。あ、それだと漫画の作者が嫌いな「大企業による独占」になってしまうのですね。えー、でも、不動産屋が無能なんだから仕方ないだろ。
これが大企業の「メリット」なのだけどなあ。漫画の作者には伝わらないらしい。

「行きつけのカフェで知り合いを作る」という許されざる贅沢

この前代未聞の2020年、2021年が過ぎた今になって見れば、漫画の中で語られる「行きつけのカフェで知り合いを作る」という行為の、何と贅沢なことか!何か、失われた遠い過去を見るような目で漫画を眺めてしまう。ああ、外国旅行、そして近所での外食!今では手の届かない夢になってしまった。
知り合いも国際都市ベルリンらしくアジア系コロンビア人、ウクライナ人、セネガル人と国際色豊かで、ドイツ人がマジョリティにならない。2冊目「ベルリンうわの空 ウンターグルンド」では、これらの知り合いと一緒に「ホームレスのための無料のシャワー、ランドリー室」を作ってしまう。外国でそのような利他行動ができる人って、すごくないですか?私はとてもできない。それだけでも、もう立派だ。偉人だ。

「もし自分が外国で住むことになったらどのような暮らしになるだろう?」と考えを巡らせることは楽しい。この漫画を読みながらだと、そんな妄想ができる。そういった意味でもこの漫画はお薦めでもあるし、作者は、いわゆる「グローバリゼーション」は嫌いなのだろうが、あなた自身がその恩恵に預かって外国で暮らしをさせてもらっている状況を、もう少し考えたほうが良いですよ、とも思う。

移民の世界

ところで私が年末年始の休みにYouTubeで見ていたビデオは Street food iconsというアメリカの食べ物屋台の店員を取材したものだ。アメリカでは、屋台というかフードトラックというか、外で食べ物を売るのは大抵、移民の仕事だ。ベルリンならトルコ系移民によるドネル・ケバブ屋台といったところか。多くの移民は「今より良い暮らし」を求めてアメリカやドイツへ移住、そこで必死に働いて、成功した者も、そうでない者もいる。そして当地流にホットドッグやハンバーガーを売る者もいれば、生まれた国や地域の食べ物を売って、いつしかそれが地元住民に愛される存在になっていく。アメリカにおけるメキシコ料理の受容で、テクス・メクス料理が生まれた。中国から日本へ来たラーメンは、日本で豚骨醤油スープやらラーメン二郎やら、謎の進化を遂げた。文化というのはこうして拡散して綯い交ぜになっていくものなのではないか?それを否定するものもいるが、歴史の大きな流れはお前の好みなんか聞いてねえんだよボケ、と思う。

だから、移民とか移住とかいうものに良いも悪いもない。良かったケースもあったし悪かったケースもあって、だからといって全体を通して良い・悪いという結論に持っていくのはおかしな話だ。そこでアメリカや、西欧世界は世界中の人々が同じ地域に暮らすという「未来の世界」を見せてくれているのだけど、当地に住んでいてもそれが気に食わない奴がいる。当然だろう。生物というのは基本的に「よそ者嫌い」で「身内贔屓」をするよう脳が設計されているからだ。それを設計したのは、雲の上に住む、白いひげの老人ではない。自然選択がそのような設計にしたというのが、ダーウィン以降の時代に住む人間としては妥当な考えだろう。自然選択というのは「まあまあうまくやれる。たまに不幸な目に遭って死ぬものも沢山いるが、生き残る奴がいればそれでよい」と考えているのだが、もっとうまくやれる、自らのアイディアで、自然選択の「成功確率」より良い数字で不幸な人を減らす方法を計画し実行できるのは、全生物のうちで人間だけだ。
だから、自分の本能の命ずるままに移民が嫌いだとか、要は自分の脳ミソにstatic const定数(Javaか)で「よそ者は嫌い」と脳ミソに刻まれている内容を復唱するだけの人間は、猿やカエルやミジンコと同じだ。これを政治的には右派と呼ぶ。

他方、左派は自分がその恩恵に預かって生きていることも知らずに貨幣経済が嫌だとか資本主義が嫌だとか大企業が嫌だとか原発が嫌だとか、そのデメリットのみに注目してメリットに着目しない。アイディアというものに「完全」などあるわけがなく、メリット・デメリットを比較して、それを採用するかを決めるべきだ。このあたり、自分で熟考もせずに自分が属していると思いこんでいるコミュニティを守ろうとするあまり思考停止しているところは右派と全く同じだ。

そういった次第で、この漫画の作者(急に話が戻る)も、大企業が悪いだとか、事あるごとに話題にするのは「ああ、皆がハマる罠にハマっているなあ」と残念な気持ちで私は眺めている。ちなみに私の知り合いのベルリンっ子も、ヴィーガンなのは「お好きにどうぞ」なのだけど、だからといって関心が気候変動へ向くのは良いとして、グレタ・トゥーンベリのような「煽動家」やら「絶滅への抵抗」運動に共感したところで気候変動問題は解決しないだろう。そこが「左派の皆が陥る罠」だ。

右派や左派は愚かだって?そのとおりだが、それがどうした!移民は「考えなしの犯罪者」だって?もしその通りだったとして、それがどうした!人間社会は今まで沢山の問題を解決してきたんだ。これらの問題だってそのうち解決できるだろう。だから、歴史の大きな流れに抵抗しようとする奴は全員愚か者だと言いたい。そんなごちゃまぜの世界で、酔っぱらいの運転する車のようにしょっちゅうぶつけながら、それでも前へ進んでいくのが人類だ!人類バンザイ。おわり。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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