ビデオゲームと私の接点

Hiroki Kaneko
14 min readNov 13, 2020

--

Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

きっかけ

Amazon MusicがIDOLA PHANTASY STAR SAGAのサントラをお薦めしてきたので、なんだこりゃとネットで調べたら興が乗った。

このゲームのいかにもスマホゲーム然とした内容には特に感心するところはなかったのだけど、そこからセガの求人を見て、こりゃ私は応募できない、スキルセットが違いすぎる、と感じた:

応募資格
■C++を用いた商用のオンラインゲーム(家庭用・PC・スマートフォン・アーケード)のサーバープログラム開発経験
■RDBMS を利用したプログラム開発経験
■STL/boostによるC++開発経験,コンシューマー、オンラインゲームの開発経験
歓迎条件
■C#によるプログラム開発経験
■オンラインゲームのプレイ経験
https://www.sega.co.jp/recruit/career/entry/career32.html

上記はサーバサイドエンジニアの募集要項。
C++は前世紀の終わり頃に私が初めて学んだシステム開発言語であったし、今世紀初頭に私が初めてソフトウェア開発でお金を手にした源泉となった言語なのだけど、最近のC++11とかboostライブラリなどの仕様は知らない。STLはかろうじて知っている、そんな感じ。C#はゲーム開発ならカジュアルゲームの開発で使用されるUnityで使うのだろうが、なぜサーバサイドエンジニアの歓迎経験になっているのだろうか、もうわからない。
追記:サーバサイドもWindowsで動かして、C#でロジックを書いて、RDBMSにデータを保存していそうだ。クライアントもサーバもWindowsというのはPCゲームのスタンダードでもあろうが、この四半世紀というものWindowsなぞクソダサい、と思ってきたので本来なら私のようなオッサンが出番の案件ではあるけど私は上記要件を満たさない。

応募資格
■C++を用いた商用の3Dゲーム(家庭用・PC・スマートフォン・アーケード)のプログラム開発経験
優遇条件
■3Dアクションゲームの開発経験
■オンラインゲームの開発経験
■C#によるプログラム開発経験
■STL, Boostの使用経験
https://www.sega.co.jp/recruit/career/entry/career31.html

これはクライアントサイドの募集要項。3Dアクションゲームの開発…私には想像もつかない世界だ。最近の超高性能ゲームコンソールが描き出す、超高解像度のグラフィックを、一体、どうやって作っているのか想像もできない(最近のゲームの絵をこの記事の上のドンキーコングと比べてほしい)。私は以前からゲーム開発者に畏敬の念を持っている。ゲーム業界にはとんでもない才能を持った人間がいて、それは業界標準から見てそんなに高いとも思えない給料で、高度なスキルを用い、毎日深夜まで働いているのだ。技術だけではなく情熱も無ければつとまらない世界。歴史ある業界でいえば映画業界のようなものだろうか。私には…。以前Unityのチュートリアルで3Dゲームのようなものを作ってみたが、3Dの世界が簡単になったと思うと同時に、これをどのようにハイエンドゲームにまで高めているのか想像できない。PS5ではリアルタイムのレイトレーシングまで使えるそうじゃないか。私が子供の頃なんて、1枚のCGをレイトレーシングで描画するのに数日間計算しなければ出てこなかったんだ!(そして球体が浮かんで周囲を映り込ませているようなつまらない作例ばかりだった)

私とゲームの接点1・川崎

川崎ソリッドスクエア(Wikipediaより)

セガの求人の応募宛先がJR川崎駅そばの川崎ソリッドスクエアだった。私は2000年代の中頃に、このビルに入居している日本の某メーカー、それは「この街で社員証を見せれば居酒屋でツケが効く」と社員に言わしめた某社グループ企業の石屋(半導体関連企業)で下請けをしていた。エントランスには浅い噴水があり、12月にはクリスマスツリーが飾られていた。私が初めてパスポートを取得したのもこのビルの2階であるし、1階の大戸屋でお弁当を買って休日出勤を頑張った思い出もある。そこにセガの、あのゲーム開発をしている魔法使いたちがいるとは、同じビルに出勤しているのにキャリアが全然違う…不思議な感じがする。なぜ東京から見て多摩川の南側である神奈川県川崎市にセガがオフィスを構えているのか分からないけど、直線距離でいえば創業地である大田区羽田からは近いと言えないこともない。しかし本社が入っている大崎ガーデンタワーは品川からも微妙に遠いし、入居ビルのすぐ横に走る湘南新宿ラインに乗っても付くのは武蔵小杉でありJR川崎ではないので、

上記ファンタシースターオンラインに、私は一時期生活の全てを掛けていた。トータルで800時間ぐらい遊んだと思う。とんでもない技術だと思った。例えばあまり技術で話題にならないBGMだけど、フィールドを散策している時の穏やかな曲が、敵に出会うとシームレスに緊張感のある曲になる。そして敵を倒すと、元のフレーズに戻ると。今までそんなBGMの演出など体験したことがなかったので大層驚いた記憶がある。過去に「うまいな」と思ったのはペルソナ1で戦闘に勝利したファンファーレが戦闘曲のどの小節の後ろにもシームレスに付くようになっていたことぐらいだろうか。

2001年当時、私が感動したその演出を作り出すには、上記記事のような大変な苦労と創造性が必要だった(そして続編であるファンタシースターユニバースにはBGMのシームレス移行が無かったし、長時間プレイをする前提のオンラインゲームであるのにホルストの「組曲惑星より:火星」のような、緊張感を煽るだけの、聞いていて疲れるだけの音楽など延々と流したから尊敬しない)。
私の中で、このような人たちはヒーローだ。しかしプロデューサーのアイツは独立先の企業で圧迫面接などカマしていい気になっているのでヒーローではない。

私とゲームの接点2・新横浜

新横浜金子ビル。私が所有しているわけではない

私のソフトウェアエンジニアとしてのキャリアの半分くらいを過ごした新横浜。ラーメン博物館の裏の駐車場から通りを挟んだ向かいに新横浜金子ビルがある。新横浜という街は1ブロックだけ大都会、あとはのどかな田園風景という田舎の中の都会であり、飲食店も1つの通りに飲み屋が集中しているだけで、サラリーマン達は昼になるとお弁当の業者目当てに外に出てくるのだった。私がこの金子ビルの通りにある中華料理店の弁当を買おうと歩いていると、金子ビルから出てくる集団を見かけた。あのインチキヘビメタのようなファッションのオッサンは…格闘ゲーム「ギルティギア」シリーズを一人で作った石渡ナントカじゃないか…カレー弁当を買いに行ってる…。首からシャープのWindows Phone, W-ZERO3を下げてる…(そういう時代です)。あのでかいアンちゃんはもう一本の格闘ゲームラインのディレクターだとか、そういう光景を見ていた。

当時の私はアークシステムワークスの社員の一人をよく知っていたので内部事情は漏れ聞こえていたのだった。残業代もロクに出ないような環境で徹夜仕事をするなんて私はまっぴらごめんだけど、情熱で仕事をしているように見えた。最近のギルティギアシリーズは、なんだかアニメが3Dで動いていて驚くけど第1作は石渡氏がX68000で、ほとんど一人で全てを作ったというのだから、絵が下手だろうがBGMが単調だろうが世界観が中二病だろうが、全て一人で作ったとなれば、どこにけなす部分があるだろうか?

同じく新横浜の組み込み系ソフトウェア企業の下請けをしていた時、同じビルに入居していたのがゲーム会社だった。ふと5階で立ち止まって、扉の前のポスターなど見て「ここであのスーパーファミコンの名作、ヨッシーアイランドをNintendo DSに移植していたのか!」などと少し嬉しくなった。同ビルに入っているカフェテリアで食事をしている時も、となりでサラダ食べ放題ボウルにサラダを山盛りにしているこの人が、もしかしたらゲームフリークたちのヒーローなのでは…などと想像していた。

新横浜に点在する中小ゲーム開発会社の創業者は大抵が大手ゲーム会社出身で、独立後も任天堂やセガなど大手から仕事をもらっているようだった。
アークも創業者がセガ出身で、途中からなぜか「くにおくん」シリーズで知られるテクノスジャパンの版権も手に入れたりして、やはりコネかキャリアか、どちらが先かよく分からないけど、存続する会社というのはその両方がなければ、と感じた。

もし自分が、その5階の会社にいて、ヨッシーアイランドDSの開発のアシスタントぐらいの事をしていれば「私はあの!世界中の皆様御存知の!スーパーマリオ・フランチャイズの1作を開発したことがあります!*1」と自己承認欲求を大いに満足させることができたのだろう。しかし今となってはそんな虚栄心などどうでも良いと思っている。だから、数年前にドイツ人青年から「ほら、日本には任天堂とかスクエニとかゲーム会社がいっぱいあるじゃん、ヒロはそういうとこに転職するってのはどう?」などと、一緒にマリオカート8DXで遊びながら言われたことがあったが、下記のような理由でそれは無理なのだった。
ちなみに彼が住む地方は「ドイツで田舎と言えばここ」ぐらいの地方在住であるけど、車で1時間弱でシュトゥットガルトに行けるし、そこにはダイムラー(ベンツの親会社)を頂点とした自動車産業の広い裾野があり、彼はその中の中小半導体会社に就職したということだった。ドイツの中小企業は名前は知られていないが、ある分野でシェア世界一といった「隠れたチャンピオン」が沢山あるとのことだった。

https://www.forbes.com/sites/rainerzitelmann/2019/07/15/the-leadership-secrets-of-the-hidden-champions/?sh=3f1cc2776952

隠れたチャンピオン(かくれたちゃんぴおん、ドイツ語:Hidden champions,ドイツ語略称:H.C.)は、ドイツのハーマン・サイモン によって提唱された経営学上の用語。比較的規模は小さく、一般的な知名度は低いが、ある分野において、非常に優れた実績・きわめて高い市場シェアを持つ会社のことを指す。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%A0%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%82%AA%E3%83%B3

*1 ヨッシーアイランドの北米向けタイトルは「スーパーマリオワールド2:ヨッシーアイランド」

ゲーム業界(から|へ)のキャリアチェンジの不可逆性

業務系システム開発を長年やっていた人がゲーム業界への転職は無理だろう。ビジネスロジックだけ書いてきた人がいきなり、3Dグラフィックと言われても困るからだ。私のグラフィック系の知識は「描画する絵を予めRAMに描いておいて、それをWin32APIならBitBlt()、Classic MacOS ToolboxならcopyBits()関数でVRAMに転送すると一瞬で描画される」時代で止まっており、数年前にUnityのチュートリアルを触った時、VRAMだとか、低レベルの話は一切無かった事に驚いたものだった。これはスマホのカードゲーム程度ならこのような低レベルの知識は要らないが、3Dグラフィックを多用するハイエンド系ではどうなのだろうか?シェーダーとか言われてもさっぱりわからない。というかゲーム業界へのキャリアパスが全くわからない。皆どこで勉強するのだろうか?
ゲーム業界に長年いた人なら業務系システム開発業界への転職は可能だろうと思った。C++が主なので組み込み系の業界で重宝されるような気がする。カーナビとか、今後ますます自動車にはソフトウェアが必要になってくるので、仕事は無くならないだろう。
以前、某メーカーの下請けをしていた頃、同じチームにいたSIerの社員さんが、前職は某ゲーム開発だと言っていたが、それがどこなのか決して語ってくれなかったことがあった。その人と懇意にしていたリーダー氏の自宅には、本棚いっぱいのラノベがあるというのだから、多分エロゲー業界なのだろうと思った。となれば開発環境は当時ならばWindows/C++であろうから、業務系システム開発に転職することは十分可能だ。
このように、ゲーム→SIerのキャリアパスは存在するが、SIer→ゲームは難しい。まるでスペイン語とポルトガル語の関係みたいだ。ポルトガル人にとってスペイン語を学ぶのは簡単だが、その逆は難しいという。
スマホブームの初期に、グリーがサーバサイドエンジニア募集でSIerの人間を高給で釣っていたけど、あれは今どうなってしまったのか。

皆様御存知の!

あなたがアセンブラ・ウィザードだったらゲームよりも名古屋近郊の自動車メーカー関連企業でAT関連の制御プログラムを書く仕事をすれば「世界中のドライバーたちの命は私が握ってるんだ」と言えなくもない。人の命を預かる重要な仕事だが、表に出ないので子供が憧れるような職業ではない。そういう仕事だってヒーローだ。それだけではなく、スーパーでリンゴをうまく並べることができる人だって同じくヒーローだと今では思っている。
憧れ、情熱、虚栄心、自己承認、デール・カーネギー言うところの「偉くなりたいという欲求」が若者を突き動かし、非常な努力もさせるものだけど、人生も折り返し地点にいる自分にとっては、もはやそのようなものに価値はなく、本当に価値のある行動とは「怠けて寝たい、楽したい、という自分と戦っていかに克つのか?」しかない。それができるならスーパーでレジを打ったって私はヒーローだ。子供には理解できないだろう。私だってこの年になるまで理解できなかった。

情熱と才能

私にはゲームを作る情熱も才能も無い。情熱を何十年も継続させているとなれば、その人物はバカか天才か、どちらかだろう。私はなんというか、「自分のできる範囲でベストを尽くすにはどうしたら良いだろうと試行錯誤を続ける」ことが仕事であるとこの年にしてようやく理解したので、別に仕事がコンビニのレジ打ちであろうと、それをいかにうまくこなすか試行錯誤をすれば十分にクリエイティブだと思っている。だから、私はもう自身の怠け心との格闘にしか興味がなく、子どもたちが目を輝かせるようなキラキラした舞台(舞台裏はキラキラしていないのだけど)を羨ましいと思っていないけど、たまにふとしたきっかけで当時を思い出すことがある。

--

--

Hiroki Kaneko
Hiroki Kaneko

Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

No responses yet