モンティ・ホール問題をどうしても理解できなくてこれ以上読み進められない:人はどこまで合理的か スティーブン・ピンカー著 その1
この本は、著者によるハーバード大学講義「Rationality」を元にまとめたものだ。原著の出版から1年足らずでもう日本語訳が出たというのは、著者による前作「21世紀の啓蒙」が2–3年待たされたことを考えれば快挙だと思う。喜び勇んで買ったは良いが、私の場合、1章から先に読み進められない。ピンカーの「21世紀の啓蒙」は私にとっての聖典になっているのだから、これは寝る間も惜しんで読むだろうと考えていたのに!
第1章 人間という動物はどのくらい合理的か
第1章では、人間は合理的であると同時に非合理的でもあることを説明するために、まずカラハリ砂漠のサン族が、どのように状況を合理的に判断して狩猟を行っているのかを説明した後、今度は人間の非合理性について、いくつかの問題を元に説明していく。その中で出てきた「モンティ・ホール問題」は、私が過去に何度も調べても、もう、どうしても理解できなかったものだ。今回も本書の第1章を何度も読み返し、散歩しながら何度も「正解」について理解しようとしたが、近所を5kmうろつきまわった挙げ句に理解できなかったので、帰宅した。その後、ネットで当問題に関する(日本語で説明された)ページを読んだが、「解説してやる」と意気込んだ人たちは例外なく日本語が下手で、私にはまったく理解できなかった。
まずWikipediaを読もう。もうわからない。
最初の選択 / 残りのドアの中身
(位置は考えなくてよい)
↓ ↓
A 当たり / ハズレ (青) ・ ハズレ (赤)
B ハズレ (青) / 当たり ・ ハズレ (赤)
C ハズレ (赤) / 当たり ・ ハズレ (青)
そのページには、上記のような図?が書かれているが、まず「↓」が何を意味しているのか?等幅フォントで示してもズレてるじゃないか。左の下矢印は当たりを指している。しかし二番目のそれは「/」を指しているのだけど?これはどういう意味?
そして問題ではハズレはヤギだったのに、なぜ色をつける?これは「ハズレA」とか「ハズレB」などと考えてもよいのか?
ドアが3つあるのだから、最初の選択での当選確率は1/3だ。起こり得るパターンを上記の図はA,B,Cとしているのだろう。だとしたらB,Cの「当たり」は、真ん中ではなく「Bは2番目、Cは3番目」に持っていったほうがわかりやすいのでは?
最初の選択で当たりを引けるケースは1つ (A) 、ハズレを引いてしまうケースは2つ (B,C) ある。
2回目の選択ではハズレが1つ除外されているため、当たりを引くケースは2つ (B,C) 。ハズレを引くケースは1つ (A) となる。
ちょっとまって。2回目の選択と言ったが、2回目の選択では、1番目の選択を変更するか、しないかを考慮している?
これは、要は「2回目の選択で1回目の選択をキャンセルして選び直した場合、選択肢はBとCの2つであり、そのうち1つの扉は既に開かれており、ハズレだとわかっている」のでしょう?選択肢がB,Cの場合は確率1/2であり、Aがハズレだとわかっている場合のみBが当たりだ。しかし本書では「当たりの確率は2/3だ」と言っているので、この考えは間違いだ。
あれ?もしかして…。
1回目の選択でAを選び、もしそれが当たりだったとしたら司会者によるハズレ扉を開くことも、2回目の選択を回答者に迫ることもしないのでは?
もしそうだとすると、司会者がハズレ扉を開いたという時点でAはハズレだとわかる。しかしそれではテレビ番組的に面白くないから、そうはしないだろう。
1回目の選択が当たりかハズレか、やはりわからないのだ。その選択が当たりであれハズレであれ、当たりの位置を知っている司会者は、わざとハズレの扉を開く。そして選択を変更するか、回答者に迫るのだ。
ポイント
最初に自分がハズレを引いていれば、2回目はドアを変えれば確実に当たりが出る(残りのハズレが除外されているため)。
最初に当たりを引いているケースは1つしかないが、ハズレを引いているケースは2つあるので、変えるほうが得である。
ワナ
「最初にハズレを引くケースは1つ多い」を忘れていると、2回目の確率が50%に見えてしまうこと。
最初にハズレを引くケースは2つあるので、確率は50%ではない。
いや、だからさ、正解を教えてくれよ。上の文中のどこにも「2/3が正解」だとは書いていないぞ。
ドアに印を付ける方法
そのドアに景品が入っていることを ○ で示す。
ドア A, B, C が ○ である確率は、それぞれ 1/3 である。
「ドア A が ○ である確率」は 1/3 であるが、「B または C が ○ である確率」は 2/3 である。
ドア C を開いたあとでも、「B または C が ○ である確率」は 2/3 である。
ドア C を開いて、C が ○ ではないと判明したあとでは、「B が ○ である確率」は、「B または Cが ○ である確率」と等しい[注釈 2]。その確率は 2/3 である。
「A が ○ である確率」は 1/3 であるが、「B が ○ である確率」は 2/3 である。
Wikipediaには、次にこんなことも書かれている。また違う例えか。マルだの赤だの混乱させないでくれ。
「ドア A が ○ である確率」は 1/3 であるが、「B または C が ○ である確率」は 2/3 である。
ここがポイントではないのか?「BまたはCが○(つまり当たり)である確率は2/3」なの?BもCもそれぞれ確率が2/3ということ?合計して2/3ということ?そこがわからない。なぜ2/3になるのか。確かに分母が3なのはわかるが、分子は?ドアが2つだから2なの?もしかして確率って合計で1になるのか?1/3 + 2/3は?忘れた。小学生でもわかることだが、現代最高の知能にご登場願おう。
1だ。しかしこの考えで間違っているだろうか。わからない。
ドア C を開いたあとでも、「B または C が ○ である確率」は 2/3 である。
なぜ?条件が変わった後でも確率が同じである理由を書いてくれ。本書には「司会者がハズレの扉を開いた時点で確率が変わる」と書いてあったぞ?
ドア C を開いて、C が ○ ではないと判明したあとでは、「B が ○ である確率」は、「B または Cが ○ である確率」と等しい[注釈 2]。その確率は 2/3 である。
なぜ「等しい」のか、説明をお願いしたい。その理由を書かなければ何も書かれていないのと同じであると感じる。
しかし、このあたりが正解である「2/3」を理解するための重要な説明であると思われる。「確率が変わる」は、この説明のことなのか。
ドアAを選択した時点での確率は、ドアAが1/3、BとCも1/3である。しかし、ここで何故か、選ばなかったドアB, Cをひとくくりに2/3であるとする。選んだものと、選ばなかったもので分けているのだ。2/3も、更に分ければB=1/3, C=1/3となるので、まあいい。
その後、正解を知っている司会者がハズレのドアを開ける。ここで疑問なのだけど、もしAが当たりであった場合、司会者はハズレのドアを開けずに「当たりです!つまらない番組にしてくれてどうもありがとう!」とか言うのだろうか。そうはならないだろう。番組的には、ここで解答者にもう一度ドアを選ばせて、盛り上げることをするはずだ。
そこで仮に、ハズレだとわかっているCのドアを開ける。ここで確率は変わったと私は考える。ハズレのドアを開けた時点で、Aも、Bも確率1/2だ。しかしそうではないと本は説明する。わざとハズレのドアを開けたのがヒントなのだと。そりゃそうだ。しかし、仮にそれがヒントだとしたら、何のヒントだろうか?
- Aはハズレだというヒント
- Aが当たりだというヒント
どちらだろうか?どちらでもないと私は感じる。Aが当たりにせよハズレにせよ、番組的にはハズレの扉を開いてみせて解答者に選択肢の変更を迫るはずだからだ。Aが当たりなら選択肢の変更なしにゲーム終了、Aがハズなら他のハズレ扉をオープン、というのなら、これは「Aは当たりではない」というヒントになるが、それでは「正解はB」以外にはないので、これも番組的にはつまらない。だから、司会者がハズレの扉をオープンすることは、Aが当たりであるかハズレであるかのヒントにはならないと感じる。
Bに関するヒントだろうか?
- Bはハズレだというヒント = Aが当たり
- Bが当たりだというヒント
これも考えにくい。何しろ開けていない扉は、あと2枚あるのだから、そのどちらの確率が高い、ということにはならないはずだ(本によると、なるはずだ)。
これは、Cに関するヒントというか選択肢からの排除である。
Cを排除したことにより、選択肢はAかBのどちらかしかない。そして、そのどちらも現状では開けていない。それなら確率1/2ずつなのでは?
A,B,Cいずれのドアも開けていない時点で、確率はそれぞれ1/3ずつだ。
Aを選び、残りをまとめて2/3と言おうが1/3ずつと言おうが、それに何の違いがあるのだろうか。
その後、司会者はCを開けた。Cはハズレだった。これは「Aが当たり、またはハズレ」であるヒントにはならない。
確率は?本書でも触れられているが「解答者は扉の後ろの車が動いたりしないと知っていることで皆は確率を誤る」とある。それなら確率は変わらないということなのでは?
まあいい。B,Cをまとめて2/3と考えることに一旦同意しよう。そして、Cを開けた後、B単体の確率が相変わらず2/3であるとは、なぜ言えるのだろうか?ここの分母はなにか?扉の数だ。そしてCを開いた時点で、Cは選択肢から外れ、分母が減るはずでは?
Cは選択肢から外れた。しかし分母は変わらず、Bの確率も変わらないという。しかしCはハズレだとわかった。だからBを選ぶべきだ…。
仮に、Cを開けた後も分母が変わらない。確率も変わらないというのなら、そもそもCを開けたことの意味などなにもないのでは?
Cを開ける前と後で、B,Cはどのような扱いになったのか?
Cを開ける前:B,Cまとめて確率2/3
Cを開けた後:Bは2/3、Cの確率は不明(0/3では?)
ひとつ理解したことは、Cを開ける前後で2/3という初期状態の確率はを指すものから、Bを指すものになった。Cは?分母が同じなら、選択肢から排除していないのか?
あ、もしかして
Cを開けた後のそれぞれの確率:
A = 1/3
B = 2/3 <- 旧 2/3 / 2(Cとの合計値)
C = 0/3 <- 旧 2/3 / 2(Bとの合計値)
こういうこと?「3分のゼロ」って何やねんという感じではある。
Bの分子はなぜ変わらないのか?後藤英一をして「ウルフラムってのはおそろしく頭のいいやつだな」と言わしめた先生!出番です。
1/3 = 約0.33.. ですよね。
「三分の一」とは何か?「3つあるうちの1つ」である。その分母は扉の数であり、Cを開けた後も変わらない。つまりCはハズレだとわかったが、「初期値の分母」として除外されていないのだ。それなら分母3は、これ以上考えないでおこう。
では分子は?Cがハズレだとわかった後でもAの1/3という数字が変わらない理由は?
Aは「Cの選択肢からの除外」の影響を受けない、という意味だろう。なぜ影響を受けないのか?それはCの結果に関わらず、Aが当たりかハズレかわからないからだ。ただ、Cの結果によってAである確率が上がったと私は考えた。しかしそれは間違いのようだ。
Bは?初期状態では「B,Cセットで確率2/3」だった。これをバラせばB,Cが各1/3ずつだ。当然だ。しかしこれはバラさずセットで考えろという。なぜ?そこがわからない。
更にわからないのは、Cが選択肢から除外された後も、「Bは確率2/3」と考えろというのだ。今まではCとセットで2/3だったのに、今はC単体でも確率2/3だ。なぜ?
なぜって、Cが除外されたからだろう。いやいやいやいや、Cが除外されたらAとBがそれぞれ確率1/2のはずだろう。
Aの確率は変わらない!それはAは選択した時点での確率を保持し続けるからだ。それはなぜか?Cを開けた後も「選び直していない」からだ。少し納得行かないが、それで無理矢理に自分を納得させる。
B,Cは?これらの確率が「まとめて2/3」だった理由は「選択したA以外の選択肢」として、まとめて考えたからだ。Cが選択肢から外れた場合でも「Bは選択したA以外の選択肢」でありつづける。
Cを開ける前後であってもAの確率が変わらないのは、Aを指定した時点での確率がそのままになっているからだ。
Cを開けた後のBの確率が変わらないのは「B,Cをまとめて考えている」からだ。それはCを開けた後も「B,Cをまとめて考えている」。Cは選択肢から外れたが、確率は変更されない。つまり「Cを開いた時点でCは無視する。確率は変わらない。しかし数字の外で回答者だけはBの確率が変わったと知っている。これは秘密であり、確率は絶対に変更しない。Cを開けたことは、あなただけの秘密である」となる。
本当?本当にこれが正解なの?
いいや違う。コンピューターによるシミュレーションでは、Bを選択した場合の正解率が約6割に、Aの場合の正解率は約3割になっており、これはほぼ理論通りだ。
「エルデシュ数」で有名な数学者、ポール・エルデシュもモンティ・ホール問題の罠に引っかかり、コンピューターによるシミュレーション結果という「事実」を突きつけられてようやく納得したそうだから、もとより私なぞに理解できるはずがないのだった。
私は、このモンティ・ホール問題が理解できずに、待ちに待ったピンカーの最新の著書をあまり読めずにいる。