不登校者のための人生サバイバル・キット(教養編 2時間目 世界史2)
想像上のヒエラルキーと差別
虚構を共有することで何百万年も掛かる進化のスピードを出し抜き、素早い社会改革が可能になった人類だったが、そこには負の面もあった。ゲティスバーグ演説には「人民による人民のための人民統治」とはあったが、黒人奴隷やアメリカ先住民は「人民」として見なされていなかった。
同様に、貧富の差も尊重していた。金持ちの子供が金持ちなのは、親の遺産を相続しただけなのだけど、それは当然の事と思われていた(現在も世界中でそう思われている)。有名大学の学生は「子供を有名大学で学ばせたい」と思っている金持ちのご子息ご令嬢ばかりなのだが、これは平等なのか。少なくとも機会均等では全く無い。
話は戻って、奴隷と自由人、黒人と白人、金持ちと貧乏人、を区別しようという根拠はなく、全て虚構であると著者は言う。しかし想像上のヒエラルキーを支持する人間は、それが虚構であるとは言わずに自然で正しい事だという。
「黒人やアメリカ先住民は、白人に比べて下等な人間である」(以前のアメリカで主流だった言説)
→戦後、遺伝学が発達した結果、人種間にそのような遺伝的差異など無いことが分かった。
「奴隷と自由人は、神によって定められた」(シュメール神話)。或いは「奴隷は生まれながらに<奴隷の性質>を持っている」(アリストテレス)
→完全に意味不明。そんな差別主義者の神が居たら説教してやるから連れてこいよ。奴隷の性質などというものも存在しない。
「金持ちが金持ちなのは、より有能で勤勉だからだ」(現在も世界中で信じられている言説)
→親が金持ちだったから、子供の頃から勉強できる環境を整えてもらい、有名大学で学ばせてもらった結果だ。そして同学OB/OGからなる「高学歴ネットワーク」を卒業後も維持して、仕事を回し合っている。あるいは親が金持ちなので、起業しても親のつてで最初から規模の大きなビジネスが出来る。あなたは金持ちの子供と同じスタートラインには立てない。
貧乏な家庭に育ち、一代で富を築いた立志伝中の人もいるが全体の1%であり、残りの99%を無視している。
「プルシャという原初の人間の体から、神々は世界を作り上げた。太陽はプルシャの目から、月は脳から、バラモン(僧侶)は口から、クシャトリヤ(武士)は腕から、ヴァイシャ(農民商人)は腿から、シュードラ(奴隷)は脚から作り出された」(ヒンドゥー教)
→古代神話ってどうしてこう、麻薬中毒患者のイカれた頭から出てくる妄想めいているのだろうか?正常な頭から出た話には聞こえない。支離滅裂。麻薬ダメ、ゼッタイ。
「女神・女媧が土から人間を造ったとき、粒の細かい黄土を練って貴族階級の人々を生み出し、平民は茶色い泥から形作った」(古代中国神話)
→土から人間が出来るわけないだろ。女神の癖に差別社会を作り出してんじゃねえよクソヘビ女。
たいていの人は、自分の社会的ヒエラルキーは自然で公正だが、他の社会のヒエラルキーは誤った基準や滑稽な基準に基づいていると主張する。現代の西洋人は人種的ヒエラルキーという概念を嘲笑うように教えられている。彼らは、黒人が白人の居住区に住んだり、白人の学校で学んだり、白人の病院で治療を受けたりするのを禁じる法律に衝撃を受ける。だが、金持ちに、より豪華な別個の居住区に住み、より高名な別個の学校で学び、より設備の整った別個の施設で医療措置を受けることを命じる、富める者と貧しい者のヒエラルキーは、多くのアメリカ人やヨーロッパ人には、完全に良識あるものに見える。だが、金持ちの多くはたんに金持ちの家に生まれたから金持ちで、貧しい人の多くはたんに貧しい家に生まれたから一生貧しいままでいるというのが、立証済みの事実なのだ。
ユヴァル・ノア・ハラリ. サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福 (Japanese Edition) (Kindle の位置№2531–2538). Kindle 版.
大学教授という肩書きを持つ著者なら、その「立証済みの事実」をいくつか信頼の置けるソースからの引用で示してほしかったのだけど。なので、私が代わりに引用を出す。この記事を書いた上杉周作は、「FACTFULNESS」の日本語訳も担当しており、これも読んでほしい本だ。そしてこの記事も、紙の本として出版してもおかしくない程の力作だ。
要するに、1929年の世界恐慌の時、アメリカの銀行は黒人居住区(これをレッドラインと呼ぶそうな)に対する融資を止めた。このためレッドライン地区は発展が遅れ、住民も住宅ローンを組めなくなり、家を保有できなくなった。そして仮に家を保有していたとしてもレッドライン地区の不動産価値は低いままだったので資産が増えることはなかった。一方、白人居住区に住む白人たちは不動産価格の高騰により、家を持っているだけで資産が増えていった。このように金持ちと貧乏人の格差は、それが世代間に受け継がれてしまった。
格差が世代間で固定してしまうこと、それを「貧困の文化」と呼んだりするのだけど、果たして上記の記事を読んだ後に「金持ちが金持ちなのは、より有能で勤勉だからだ」と言えるだろうか?「有能で勤勉だから財を成した人もいるだろうが、ほとんどは親から相続した財産、環境のせいだ」と言うのがせいぜいではないだろうか。
社会的な成功、というものは一見、それが生まれではなく能力や勤勉さで決定される、公平なルールのように思えるけど実際は違う。生まれた時から優れた教育を受けられる金持ちの子供が育つ環境と、禄に学校にも行かないのが当たり前、という環境で育った子供が将来、社会的に成功するチャンスは平等だろうか?というところでこの辺の話はおしまいにしておく。私はここまでの話の結論を「みんなも学校へ行こう!」といった優等生の意見にはしないので。行きたくなければ行かなくて結構。ただし人間社会を知るための勉強は自習しなければならないのが条件だ。
日本社会に関する、厚切りジェイソン氏の名言を載せておく。これが「学校へ行きたくなければ行かなくても良い理由」だ:
幼稚園→周りと合わせろ
小学校→周りと合わせろ
中学校→周りと合わせろ
高校→周りと合わせろ
大学→周りと合わせろ
会社→周りと合わせろ
パターンパターン!見えてきたよ!「やりたいことが分からない」とよく相談受ける理由。
自分で考える機会が今までなかったから。
社会が虚構に合わせて変化する
ではなぜ事実とは違う「金持ち・貧乏は能力説」が幅を利かせているのかと言うと、ここがハラリの慧眼であるのだけど、社会が虚構に合わせて変化した結果、誰かがまた新しい虚構を広めるまで、社会は虚構に沿ったまま固定されてしまうからであると見抜いた。人間の命は短いので、社会がなぜ今のようになったのかまでは想像できないために虚構が真実だと思いこんでしまうのだ。社会が虚構の意のままに変わった結果が現代である、とは思わない。
ハラリは人類史を「虚構を他者と共有することで繁栄していった」と一文でまとめてしまった。ハラリは歴史学のニュートンだ、いやアインシュタインだ、ということでもあろう。既に起きてしまった事に対してその原因を見抜く力についてハラリは世界一だろうけど、未来予測に関してはからっきしなので続刊の「ホモ・デウス」では「AIが人類の労働を奪う」みたいな事が書かれており、私は読みながら目が泳いでしまいました。テクノロジーに関する未来予測はテクノロジーに明るい人間でないと無理ですね。
それはそうと本書では、ではなぜアメリカでは南北戦争の結果としての奴隷解放後も黒人の生活は向上しなかったのかを例に挙げている。
- 白人は自身の利益のために「黒人は白人より劣っている」という想像上のヒエラルキーを作り出した
- 想像上のヒエラルキーにより黒人は奴隷の身分に落とされていた
- 南北戦争の結果、奴隷制は非合法になった
- 長年の奴隷制と偏見の結果、黒人家庭は白人家庭よりも貧しく、教育水準も低かった為、良い報酬の仕事に就けなかった
- 黒人が良い仕事に就けない現状を見て、人々は「ほら見ろ、黒人は知能が低く怠惰だから良い仕事に就けないのだ」と結論した
- 結論した白人雇用者は黒人労働者を良い待遇で雇わなかったため、黒人の生活は改善しなかった(4に戻る)
2の原因は「ヨーロッパ白人の方がより強力な武器(銃や大砲)を持っていて、強いやつが弱いやつを奴隷にするのは当然のことだと思われていた野蛮な時代だったから」で説明が付くような気がするが、それは伝えたいことではないので、どうでもいい。
さて、5の現状を作った原因は何だろうか?4だ。なぜ4の状況になったかというと、2があるからだ。しかし多くの人々は、5の原因を、2を作り出した原因、1という事実ではない想像上のヒエラルキーに求めたのだ。正解はこうだ:「偏見に過ぎない1に合わせて社会が変化した結果として黒人は被害を被った。つまり5があるのは2–4が原因。しかし無知な大衆は原因を偏見である1に求めた」
説明がクドくなってしまったので、図で示す。
これを「社会の悪循環」と呼ぶことも出来るし、これこそが人類の歴史の全てだ、と呼ぶこともできる。
こんな事、学校の歴史の教科書に書いてあるか?とか言うと私はまるで、YouTubeで鬱陶しい広告を出している国民主義者のクソハゲみたいになってしまうが、まあ「新しい視点」ぐらいに言っておく。