今では閉店した2つの地元熱帯魚店に関する思い出
2020年の春に、15年くらい飼っていた肺魚が死んでからというもの、私は魚類を飼っていない。その肺魚も最後の2年くらいは、いわゆる「転覆病」というやつでひっくり返ったまま何も食べずに生きていた。その肺魚はプロトプテルス・アンフィビウスという最小の種類で、日本ではなぜか毎年ゴールデンウィーク頃になると輸入されるため、15年ほど前の5月、国道沿いのペットショップへ行って買い求めた。確か2,3万円したと記憶している。肺魚は養殖できないので高価なのだった。
それからペットショップといえば、ショッピングモールに入っているような店しか知らず、個人経営の店には足が遠のいてしまっていた。理由の一つはペットを買う余裕がなかったことと、もう一つはネット通販の方が器具類は安いので、生体以外はネット通販で購入してしまっていたからだ。
久しぶりに地元の熱帯魚店の近くを通りかかると、そこは既に更地になっていた。地元で50年ちかく営業していた店だったが、最後に訪れたときは器具類はほとんど置かれておらず、生体も数が減ったな…と感じた。観賞魚を飼うことは稀な趣味になったのか?ネット通販にやられたのか?と思ったが、その両方のような気がした。
もう一店、市の北側にある店も、随分前に無くなっていた。
そこは随分綺麗な店内で、品揃えも通好みで値段も安く、たまに電車に乗ってそこを尋ねるのが好きだった。店長はいかにも昔から魚が好きですといった風情で、何かテレビ番組の、水草レイアウトコンテストに出場したりもしていた。
そこで餌やら消耗品を飼うたびに店内の「品揃え」を見るのが好きだった私だったが、店番がたまに女性になる時があり、いつだったかその女性のお腹が大きかったので、店長の妻なのかな、と思っていた。
その後、東日本大震災が起き、水槽が滅茶苦茶に破壊され、店自体は線路の反対側に引っ越したようだったが、しばらくしたら閉店していた。
個人経営の店、というものを、最近は見なくなってしまった。皆、企業が経営する、大規模チェーン店ばかりになってしまった。私が今、見ることができる個人経営の店といえばパン屋ぐらいであり、これもあまり儲かる商売ではない。というのも、私はパンが1個300円から500円もするような高級ベーカリーだかブーランジェリー(フランス語)だかへ行く金満家ではなく、ディスカウントスーパーに併設された、ディスカウント・ベーカリーとでも呼ぶべきパン屋、そこではパンが1個100円程度、に行くことしかできないからだ。
もう一つ思い出した。これは私の家から電車で15分程度の場所にあった熱帯魚店だったのだけど、そこは店員が皆角刈りの威勢のいい兄ちゃんばかりの店だったのだけど、そういえば1990年代当時、アジアアロワナがブームで、金持ち連中は皆、目玉の飛び出るような値段のアロワナを飼っていたけど今はどうなんだろう?と思っている。
店内にはいつもFMラジオが流れており、そこで私は映画監督の伊丹十三の自殺を知って驚いた。そして私はそこで60cmのガラス水槽を買い、徒歩と電車で持ち帰った。若かったなと思う。今ではそんな気力・体力はない。
その「大震災で店が破壊された店主」の心労を思うと本当に悲しくなる。だいたい熱帯魚店というものを私は経営したことがないのでわからないが、あまり儲かるような商売ではないように思う。単価が安いからだ。それこそ前述の「目玉の飛び出るような値段のアジアアロワナ」でも売らない限りは。そうやって、経営的にはカツカツだけれど自身の魚への愛のために続けていた「夢の店」が、自分ではどうすることもできない自然災害によって破壊され、別の場所で店を再開してみたが、何が悪かったのか、世間のブームが去ったからなのか、私のように安いネット通販で器具を買う人間ばかりになってしまったからなのか上手くいかず…。本当に残念だ。残念だが、ネット通販を利用してこれら実店舗の売上を下げた私にそれを言う資格はないのではないか。