偶然知った雲の上の存在による回顧録とCGの当時

Hiroki Kaneko
Jul 5, 2022

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Photo by Shahadat Rahman on Unsplash

Medium内に面白い読み物を見つけて、つい全部読んでしまった。ケヴェ・カルダンという人の回顧録だった。コンピューターグラフィックスが専門の彼が過ごした1980–90年代の状況が書かれており、自分の知らない世界を知るようで興奮した。ソフトウェア・エンジニアによるエッセイに興味をなくして随分経つのだけど、それは相手のキラキラしたキャリアに比べて自分は…という劣等感を感じるからだ。しかしMITで数学の学位を取得、みたいな人はもう、比べるべくもない、雲の上の存在、歴史書に登場する人物、という気がして、あまり劣等感を感じずにすむ。

彼がCommonLispでCGを描こうと思った状況はLISPマシンからはじまり、それがワークステーションになったり、Apple Macintosh PowerBook 170にMacintosh CommonLispで作業をするようになったという下りも大好きだ。以下の記事も読むと、当時の状況がよりよく理解できるかもしれない。

この人のプログラマーとしての原点はLispなのは、当時のMIT学生なのだから当然としても、文章を読んでいるとオブジェクト指向(OO)のファンだということもよくわかる。この21世紀においては「関数型言語vsオブジェクト指向言語」という対立でしか語られがちなのだけど、関数型言語のエッセンスがすべて詰まっているLispでOOを使うことが多いのは、掲載されているコードに defcalss というキーワードが多かったからよくわかる。
結局、どのような技術を使うのが適当なのか?については「時と場合による」としか言いようがなく、彼の実現したかったことにOOがうまく適合したからだという当たり前の話なのだろう。

更に興味深かったのは、オブジェクト指向言語としてはC++よりSmalltalk、そしてObjective-Cを気に入っているのはよく聞かれる好みだとしても、Objective-Cの後継であるはずのSwiftをあまり評価していなかったことだ。私はSwiftにあまり詳しくないので、なぜそのような評価なのかはよくわからなかった。Swiftが登場したとき、Objective-Cの言語的な特徴、メリットは受け継がれるのかと興味を持ったけど、少なくとも彼にとってはそうではなかった、ということらしい。

当時のsiggraphの状況のこと、そこでPixar買収直前直後くらいのスティーブ・ジョブズを見たこと、Softimageの顛末、といったCGの変遷をその目で見てきた彼の回顧録は歴史の一断面、という気がした。

ところで私がこのような専門外?のことについて興味をなくしてしまったのはいつからだろうか、と考えた。昔はPC雑誌などを買っていると、それまで興味のなかった分野の記事にも目を通すことになり、それが自分の視野を広めていたのだと気づいた。翻って現在は、CGの現在って、どうなのでしょうじゃ?全然知らない。私が紙の雑誌を買っていて、そこにCGの記事が載っていた頃は、ようやくMayaのバージョン1が登場して、これはすごい、みたいな雰囲気だったと記憶している。

このように、自分が仕事で扱っている分野以外にも興味を持つには自分のアンテナを広く持つことが必要であり、そのためには何をしたら良いのか?紙の雑誌がない今、自分の心持ちとして「興味を広く持つ」と思い続けるくらいしかないのでは、と思った。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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