嘘を吐く理由は団結をディスプレイしたかったからだ
早く日本語訳が出ないかと待ち遠しい、スティーブン・ピンカー著「Enlightenment Now」の抄訳を読んでいたら、今まで私がずっと疑問に思っていた、というか嫌いで仕方がなかった「事実を無視する人間」の理由が、分かってしまった。これは私にとって大発見だった。
21世紀はかつてないほど知識へのアクセスが容易になっている片方で,不合理性の動乱も渦巻いている.進化の否定,反ワクチン,温暖化否定,陰謀論の大繁殖,トランプの当選.理性を信じるものにはこれは絶望すべきパラドクスにみえる.しかし彼等も自身の非合理性を少し持っていて,説明できるかもしれないデータを見過ごしているのだ.
大衆の愚鈍さの標準的な説明は「無知」というものだ.二流の教育システムが大衆を科学的な文盲にし,お馬鹿な芸能人や扇情的ケーブルニュースに煽動される.そして標準的な解決法は教育の改善ということになる.この説明は科学者である私にとっては魅力的だったが,今ではこれは誤っている(あるいは問題のごく一部に過ぎない)と考えるようになった.
常識人ぶった人間が偽ニュースのような問題に接すると、最後には「やはり教育が大切だ」といって話題を終わらせようとする。では、どうやってその「教育」とやらをするのか?失敗し続けているじゃないか。具体的に何もアイディアが無いくせに「教育が大切だ」と言うのは、「私には改善策は思いつきません」と言うのと同じことなのではないか、と常々私は思っていた。
人々が進化を信じるかどうかは,進化の正しい理解をしているかどうかとはあまり関連していない.(リサーチが紹介されている)「進化を信じるかどうか」は「自分が世俗的リベラルのサブカルチャーに属しているかどうか」と最も関連しているのだ.(つまり反進化論を表明するかどうかは自分が信心深い保守派カルチャーに属しているかどうかに関連している)これは温暖化がフェイクかどうかについても同じだ.温暖化は科学的な知識の問題ではなく,政治的イデオロギーマターになっているのだ.
ぎゃー!それだ!地球温暖化という、証拠がたっぷりある問題に対して「嘘だ」と呼ぶ連中は、それが「無知」故ではなく(中にはそんなやつもいるだろうが)、自分たちが属している同盟への忠誠を誓って生き延びるためだ!「利害関係のある石油・石炭業界関係者」以外は、それだ!
法学者であるダン・カハンはある種の信念は文化的同盟のシンボルになっていると主張している.人々はこれらの信念の是非について,その是非を知っているかどうかではなく,自分がどの同盟に属しているかに従って態度を決めているのだ.
決めてる!決めてる!幸福実現党のババアが朝、JR新川崎駅前で「日本の植民地支配にアジアの国々は感謝している(※1)」と叫ぶのも、あのピース・オブ・シットが宗教同盟の中で生き延びて便益を受ける、あるいは既に受けているのでこれからも受け続けたいがために吐いている「内部集団のためにつく嘘」であり、外に向けて叫んでいるようでその実、自集団へ向けての忠誠の誓いだったのだ!
それを100回題目を唱えていると自己欺瞞だか自己催眠によって信じるようになってしまった。
そしてその団結のためのシンボルは事実である必要はない!
カハンは,そういう意味では人々の選択は「合理的だ」と指摘している.人々が進化や温暖化について特定の信念を表明した場合に,それが世界を変える可能性は極めて小さいが,彼等の属するコミュニティにおける扱われ方には大きな差が生じるからだ.我々は「信念の共同体の悲劇」の登場人物なのだ.
(中略)
2016年の大統領選の中で,多くの政治評論家はトランプ支持者のあからさまな虚偽や陰謀論を支持するコメントを信じられない思いで聞いていた.実は彼等は「青い嘘(イングループのためにつく嘘)」を共有していたというわけなのだ.彼等は陰謀論を支持することで,リベラルに反対し,団結をディスプレイしていたのだ.そしてディプレイのシグナルとしては,ばかばかしい嘘を信じているということがコストのある信頼できるシグナルになる.
「信念の共同体の悲劇」とはどういう意味か?
まず「共有地(コモンズ)の悲劇」は、誰でも自由に家畜を離すことができる共有の牧草地があるが、誰もが利益を最大化しようとして取れる限りの牧草を自身の家畜に食べさせてしまう。結果、共有地の牧草が無くなり、皆が損をする、という意味だった。
「<信念の共同体>の悲劇」とは、団結をディスプレイするために、ばかばかしい嘘を信じてしまった結果、地球温暖化が加速して干魃や洪水で皆が損をする、という意味だろうか。
「反知性主義」だの何だのと言われていたのは、人間という生物が集団の中で同盟を作って自分が生き抜くために戦略的につく嘘だったのだ!これは難しい問題だ。しかし原因がわかれば対策も取れるというものだ。少なくとも「やはり教育が大切だ」などと分かったような事を言って話を終わらせるよりは、よほど。
おおお…ピンカー、何という知性。チョムスキーの弟子筋だったか?というとその政治的スタンスも少しは想像できるというものだ。
早く日本語訳が出版されますように。
追伸。下品な言葉遣いを改めました:ド低能→クサレ脳ミソ
追伸。帝国主義の是非について
(※1)帝国主義についての善悪の判断は、ユヴァル・ハラリ流に言えば「帝国の遺産は沢山ありすぎて、それをまとめて善とか悪とかどちらかだとは断言できない」となるだろう。例えばインドの荘厳なムンバイ駅(善)を、イギリス支配の象徴だ!壊せ!とはならない。しかし一方でセポイの反乱でイギリス軍は反乱軍兵士を大砲の先にくくりつけて殺した(悪)。日本の台湾支配においても、鉄道やダムを作った(善)一方、霧社事件で蜂起した人々を何百人も殺した(悪)。
個別事案:
イギリスのインド支配
・ムンバイ駅を作った→善
・セポイの反乱でイギリス軍は反乱軍兵士を殺した→悪
日本の台湾支配
・鉄道やダムを作った→善
・霧社事件で蜂起した人々を何百人も殺した→悪
「感謝している」云々に関しては、「社会インフラを作ったことに感謝している」のか「自分たちを殺してくれたことに感謝している」のか、もっと詳しく言わなければどうにもならないだろう。個別に判断すべき問題を十把一絡げにして事の善悪など判断できない。そんな雑な議論しかできない奴が政治家気取って口出ししてるんじゃねえよ。あ、「内部集団のためにつく嘘」でしたね。ご自由にどうぞ。ピース・オブ・シット(訳:クソカス野郎)。