宗教に基づく生活態度

Hiroki Kaneko
May 27, 2024

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Photo by Alison Pang on Unsplash

マレーシアから来たという中年夫婦とジャパニーズレストランへ行った。
彼らは顔も名前も中国系で、おそらく彼らの祖先が中国南部からマレー半島へ移民した人たちの子孫らしかった。つまり、彼らは民族的にはマレー人ではないし、おそらくイスラム教でもなさそうだった。彼らはレンタカーを借りて、関東近県から岐阜県まで二週間のロードトリップをしていたというのだから、少なくとも貧しい人たちでもなさそうだった。マレーシアも日本も左側通行なので、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、香港など「左側通行の国々」の人たちは、日本を旅行する時にレンタカーを借りる場合がある。一方、世界のそれ以外の国々、つまりアメリカ人やカナダ人は「道路の左側を運転するのは怖い」と感じてレンタカーによるロードトリップには消極的だ。

話をしていると、彼らはキリスト教だと言っていた。キリスト教というと、私はすぐ、アメリカのどこぞの大学の卒業スピーチで「女に高等教育は不要である」と彼女たちの4年間の努力を労いもしない、自分はスポーツ選手ふぜいのアホなのにいい気になるなよ、の彼を思い出してしまい、あれがキリスト教徒(少なくともアメリカのトウモロコシ畑の真ん中では)の代表のように感じられ、私は当初、訝しんだ。つまり、あの夫婦の夫が英語で私に話したところの、神様はいつも私たちを見ていて、イエスはすべての人類の罪を背負い…といった「今まで何となく耳にしたことのあるキリスト教の教義」を、本気で信じている人たちを目の前にしたからだ。
しかし、少なくともあの夫婦が悪い人たちだとは思えない。

ちなみに今まで私にイスラム教の説教をしたマレー人はいなかった。比較的若い彼らは豚肉は食べないかもしれないが、彼らは日本のアニメに夢中であるので、秋葉原や池袋へ行くのに忙しく、私に布教している暇はないのだ。これは民族的な差ではなく、単に世代の差でもある。
中国系の中年夫婦はロードトリップによってひたちなか公園や、日光や、飛騨高山といった日本の自然、伝統文化を楽しむために日本を訪れたのであり、マレー系の大学生たちは自然や伝統文化というよりも現代日本の大衆文化に興味があるので、アニメグッズ購入や声優のイベントに参加するため、訪れるのは東京のみである。

宗教に基づく生活というのは、私には考えられないが、少なくとも不確かな未来に不安を覚えるよりも「最後は神様がなんとかしてくれる」と根拠もなく感じている方が心は落ち着くだろう。彼ら中年夫婦からは、そのような落ち着きが見て取れた。

では、私がそのような考えで日々の生活を送れるか、というと難しいだろう。「最後は神様がなんとかしてくれる」とはとても信じられないからだ。

バチカン市国には、「船で遭難した時、神に祈って助かった」絵が飾られているという。
それを見た人は言った。
「で、神に祈ったけど沈没した船の絵はどこにあるんですか?」

どうしてもこのような話を思い出してしまう。ロシアによる空爆で殺されたウクライナ市民はウクライナ正教会の信者でもあろうが、信心が足りなかったのか?イスラエルによる空爆で殺されたパレスチナ人は、イスラム教の「背教者」だったのか?極右ユダヤ人が考えている「約束の地」が本当なら、お前らの神ってのは不動産屋なのか?
あ、「このような戦争も<神の計画の一部だ>」みたいな答えは不可です。証拠がないので。

(神なんか)いるわけねえじゃん、と私は思っているし、おそらくそれで99%正解だろう。特に私は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の「アブラハムの宗教」と呼ばれる、数千年前の中東に住んでいた牧畜民たちの価値観を、なぜユーラシア大陸の東の果ての、更に海を隔てた島に住む私が信じなければならないのか?と思っている。カトリックの聖体受領では、パンとワインがキリストの肉であり血であるという。はぁ。ご飯と日本酒じゃだめですかね?気取ってんじゃねえ、と感じる。
世界のどこに住んでいても人間は人間だし、数千年前と現在とで人間という種に大した違いはないだろう。しかし人間は変わらなくても、人間を取り巻く社会環境は様変わりしているし、道徳も「進化」していると感じる。

アブラハムの宗教について私が一番違和感を覚えるのは「この世界の主役は人間であり、その他の動物、植物は人間に利用されるだけの存在である」という考えが、本当に、てめえ、サルの親戚が思い上がるな!言いたくなる。それは人間が狩猟採集をやめて、農耕生活を始めた時に「自分は自然を支配できる」と思い上がった当時の価値観がそのまま残っているだけだ。

宗教については私は信じることはできないが、それが人生哲学だとしたら、気が楽になるだろうな、とは思ったし、彼らはまったく善良な人間だった。今度マレーシアを訪れた時は、ぜひお会いしたいと思った。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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