未プレイのゲーム・198XをYouTube動画を見ただけで解説する
知らなかったのだけど、198Xと言うゲームがある。スウェーデンのHI-BIT Studiosと言うところが作った、レトロ風ゲームアンソロジーのアドベンチャーゲーム、であるらしい。私は未プレイだがYouTubeのプレイ動画を見て、その緻密なピクセルアートに見入ってしまった。ちなみに英語版を全部と日本語版をちょっと見ただけなので、日本語版がどうなっているのかはあまり知らない。
スウェーデン人が作ったのに主人公はどこか、アメリカはLA郊外に住んでいるらしい。母親には入ってはいけないと言われたゲームセンターで、主人公はまだ見たことのないゲームの世界に、日常の慰めを見つけるのだった。
パンチやキックの一発が重い、最高級のベルトアクション
Beating Heartと言うゲーム。ファイナルファイト風だがオリジナルより全然良い。アニメーションは緻密だし、パンチやキックの一発一発が「重たい」のだ。特に相打ちになって敵と主人公が同時に吹っ飛ばされるところなど、痛そうだ。ジャンプも大して飛べないところも重力を感じることができ、リアルだ。よくゲームキャラが人の背丈より高くジャンプするけど、そんなことできないでしょう(この主人公、竜巻旋風脚はできるのだが、それは不問に伏す)。
これ、途中までじゃなくて最後まで作ったらファイナルファイトより面白いゲーム、と言うことはこの間4が出たベア・ナックルなんか問題にならないほど良いゲームになりそうなのに。
‘R-TYPE’は製作者が「レーザータイプ」という意味で名付けたのだがLASERなら’L’だろというツッコミを英語ネイティブスピーカー達は当時したのか?
OUT OF THE VOID。R-TYPE風だ。いや、よくできてる。YouTubeのコメント欄に「巨大ロボに内臓があるのはエヴァンゲリオン以降であり80年代ではなく90年代だな」とのコメントもあった(英語で)。
辿り着けない地平線の向こうの都市
THE RUNAWAY。アウトラン風。
25:38あたりからのモノローグとゲームのシンクロ、そして音楽がすごい。「地平線の向こうにある街へ向かって夜通し車を飛ばす」だけどこれはゲームなので永遠にあの街へは辿り着けない。非情にもタイムアップして車は停止、主人公は現実に引き戻される。
この演出!泣いてしまう。
二進数のI LOVE U
最後のダンジョンRPG、KILL SCREENはゲームというより、主人公の心象世界だろう。敵を倒すたびに、主人公の近況というかトラウマになっているセリフが表示される。日本語版の訳ではニュアンスがだいぶ省略されていて、これでは主人公の状況がわからないように感じた。
ゲーム実況動画の日本人は「わからない」を連発していたけど、そのくらい分かれよ。主人公の家庭がうまくいってないんだろうが。
とりあえず私の訳を書くけど、英語は不得意なので間違っているかもしれない。
just a kid(ただのガキだ)
why are you here(何であなたがここにいるの)
no escape(逃げられない)
you are grounded(お前は外出禁止だ)
this is not a game(これはゲームじゃないんだ)
you are lost(お前は負けたんだ)
data corruption deleted(データ破損削除)
no way out(追い詰められて)
cannot complete(完了できません)
help help help(助けて助けて助けて)
you will never leave me(あなたは私の元から離れないわよね)
syntax broken(文法破損)
all your fault(全部あなたのせい)
go to your room(部屋に戻りなさい)
i know best(私が一番知ってる)
don’t stay up(起きないで)
do your homework(宿題しなさい)
no friends(友達がいない)
time to grow up(大人になるときよ)
my house my rules(俺の家だ、俺がルールだ)
ac surge imminent(電流漏れの危険)
he is alone(あの人はひとりぼっち)
please stay(ここにいて)
この前のモノローグで「父さんがあんなことになって」と言っていたので、両親が離婚の危機なのだろう。そこで父親に何があったのかは語られない。
古風なRPGなので、一歩進むたびに「北へ前進」と表示されるのだけど、ラスボスとのエンカウントで奇妙な0と1が表示される。
これ、ゲームオタクなら「ははーん、隠しメッセージだな」と気づけよ。0と1ならバイナリ=2進数だろう、それが8つ区切りなら8ビット=1バイトだろう、ということは1文字1バイトのASCII文字コードである可能性が高い。16進数に変換した後にASCIIコードにマッピングしてみろよ(もしかして日本語版で省略されているのか?):
2進数 16進数 ASCII
01101001 0x69 i
00100000 0x20 (NULL)
01101100 0x6c l
01101111 0x6f o
01110110 0x76 v
01100101 0x65 e
00100000 0x20 (NULL)
01110101 0x75 u
“I LOVE YOU”って言ってるじゃねえか。ラスボスのマザーボードは主人公の母親であり、息子のことを愛している、が母の本心だろう。しかし息子はそのことを理解できない(だから二進数で暗号化されている)。画面左側のプレイヤー行動ログを見ると、敵と出会うと「敵ファイル」をアセンブルしていると出ている。現実とゲームが混同した世界にいる主人公にとって、自分の敵はゲームの中にいるのか、外にいるのか、よくわからないという演出なのだろう。そして最後に「現実世界のラスボス」である母親が登場するわけだが、そこで「敵ファイル」であるMOR(ther).01ファイルのassemble(構築)に失敗しているから*、マザーボードが言おうとしているセリフが生データであるバイナリのまま表示されるのだ。いくら母が自分のことを気にかけていたとしても*、主人公にとっては「意味不明の二進数」でしかない。母の愛は今の主人公にとってエンコード不能なのだ。
*assembledと書いてあるから、失敗はしていないですね
*英語の’love’を日本語で’愛’と訳してもこれは理解できない。loveとは他人を気遣う感情のことであり、恋愛感情ではない英語の意味で言えば、「愛」の反対は「憎しみ」ではなく、「無関心」だ。無関心の反対は他人を気にかけることであり、それがloveの意味だ
一方、母の口をついて出るのは主人公を苛立たせることばかり。それで親子の関係が拗れてしまっているのだ:
a storm is coming(嵐が来る)
be still(じっとしてて)
i am sorry(ごめんなさい)
no more denied(もう拒絶されない)
why are you doing this(どうしてこんなことをするの)
not for you(あなたのためじゃないのよ)
you never listen(あなたは聞こうともしない)
end of discussion(話し合いはもう終わり)
マザーボードをいくら攻撃してもダメージは与えられない。そしてマザーボードは主人公のHPを吸い取るばかりで、一方的なイベント戦闘は「話し合いはもう終わり」とばかりに終了する。これは両者のすれ違いのメタファーととるべきだろう。
ちなみに英語版のプレイ動画のコメント欄を見ると、動画では表示されなかった別のメッセージが中ボスのドラゴンのところにあるらしく、その二進数を解読すれば“C2H5OH”となり、これはエタノールの化学式だ。つまり父親がアルコール依存症になって家庭が崩壊してしまったことを暗示している。
それが、YouTubeに投稿されている日本人のプレイ動画実況者はこんな事を言っていた:
え?終わったっぽいーこれは意味がわからないですねーもう少しストーリー性があるのかと思ったんですけど、まあto be continuedなんで続編を作るつもりなんですかねー。これはー、えー、なんか全部クリアしたんですけど、僕の方は何のこっちゃわからない状態でクリアしたんですけど(略
なんかこうもうちょっとストーリーに踏み込んだところが欲しかったんですけどそこは続編で(略
アホか。主人公の状況についてはゲーム中で充分踏み込んでいる。
収録の、どのゲームも1980年代の日本製ゲームへの敬意*に溢れているのに、当の日本人が何も受け取れないとあっては、嘆かわしいね。
ちなみに同ゲームの実況動画をもう一つみたが、それはアメリカ人のものだったけど、収録ミニゲームの全ての元ネタを理解して、THE RUNAWAYに関しては当時のセガ・システム16基板のグラフィック表示性能に関するコメントまでしていた。日本人の負け、アメリカ人の勝ち。
*respectの日本語訳には尊敬、敬意、尊重、の3つの意味があり前後の文脈でどのように訳すか決まる。カタカナでリ,ス,ペ,ク,トと書いてもわかるわけがないだろう
製作者の意図を汲み取れない残念な日本のゲーマー達
二人ともKILL SCREENの考察なし。