本の感想を書こうと思ったら「TEDトークを見ろ」で充分だった

Hiroki Kaneko
Nov 1, 2020

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怠けて本が読めない2020年だった。パンデミックで図書館が閉まっていたということもあるし、私自身、生活環境が変わってそれどころではなかったところもある。夏前になってようやく図書館が再開した後に借りたのは、前々から読みたいと思っていたピンカー著「暴力の人類史」上下巻だけだった。

本書では、人類の暴力が減り続けていることを豊富な資料を元に解説しているのだけど、歴史上の拷問、刑罰のむごたらしさを説明した章は、読んでいて目を背けたくなるほどだった。だいたい私は映画のようなフィクションですら暴力シーンはだめで、ビデオゲームであれば2Dのピクセルアートでいくら首が飛んでも平気だが、3Dではリアルなので、戦争モノは遠慮したい。「ストリートファイター」シリーズは暴力だし最近は3Dだが、現実世界では手から波動拳は出ないので、ファンタジー・バイオレンスとしてOKだ。
ここで感想は繰り返さないので、過去に書いた記事へのリンクを書く(これも感想になっていないけど)。

そのように、子供の頃から暴力が嫌いであった「臆病者」の私であるから、世界からなぜ戦争が無くならないのか、というのは私の当時からの疑問だった。戦争で死にそうな目に遭い、実際兄は死んだという話を聞かせてくれた祖父がいたので、私はいつかまた戦争が起きて、私が徴兵されて戦地へ送り込まれたとしたら、ストレスから頭がおかしくなってしまうと恐怖していた。そして世の中には戦争をしたくてたまらない奴がいると思えてならなかった。なぜなのか?それは大抵、名誉だとか栄光だとか、クソの役にも立たないものを巡って死ぬまで戦おう、それが「立派な大人の行動」だと彼らは思っているふしがあった。そして戦争を正当化する。そんな彼らに言ってやれる事といえば「そうですね!勇敢なあなた、バンザイ!まずあなたから最前線へ行ってもらいましょう」ぐらいであったが、ここ数年、進化心理学の本を読みまくって、これらの心理はチンパンジーの時代から人間が持っている本能であるとの思いが深くなった。敵に対して「自分は決して屈しないし、手を出したら痛い目にあう」とディスプレイすることは、戦争を回避する効果があったのだ*1。しかしお互いに意地を張り合っていると戦争を回避するどころか、終われなくなってしまう。この辺りの解説は「暴力の人類史」下巻で、有名な「囚人のジレンマ」を国家間の外交に見立てて解説しているので読んで欲しい。

*1 「俺をナメたら痛い目に遭うぞ」ディスプレイは類人猿から狩猟採集生活までは意味のある行動であったが、武器といえば打製石器であった頃ならともかく核ミサイルまで持っている現代においては捨てなければならない「猿の本能」だ。

法律も裁判所も警察も刑務所も無かった時代や、チンパンジーの社会には、これら名誉だとか栄光だとか勇敢だとかいう行動には実利的な意味があった。しかし戦争は違法であると国際機関が決めてしまい、平和であることのほうがメリットが大きいと国家間に認めさせれば戦争にメリットはなくなる。あとは名誉その他といった「猿の本能」を持った奴をどうするかだ。男性ホルモン過剰なので、そいつらキンタマ切り取って豚に食わせろよ、とも思うがそういうわけにもいかない場合は、やはりメリット/デメリットの事実ベースで判断するしかないのだと思う。

それでは私達は事実を元に議論ができているのか?と考えると、トランプ信者が大勢いるのを見せつけられると不安になる。それでも事実ベースで議論をできるくらい、今の世代は頭が良くなっているのだとする根拠は「フリン効果」であり、これはピンカーの「21世紀の啓蒙」にかかれている。

なぜ祖父母世代よりもIQが高いのか

書かれている内容のすべては上記ビデオで、ジェームズ・フリン本人の口から語られる内容そのものだった。このTEDトークでは、IQ向上の原因については何も語られていないが(栄養状態の改善と科学的な教育によるものとする)、そのIQ向上の最も顕著な例は抽象的に物事を考えられるかだという。

“ドイツにラクダはいない。ハンブルクはドイツの都市である。さてハンブルクにラクダはいるか?”

100年前のロシアの農民の答えは「まあ大きな都市にはラクダくらいいるだろうよ」だった。

“北極には常に雪がある。常に雪がある場所にいるクマは白い。さて北極のクマの毛皮の色は何色か?”

ロシアの農民「そういうのは証言で決まる。もし北極から来た人がクマが白いと言えば白いのだろうが、俺が今まで見たクマは茶色だった」

仮定を元にした思考ができない人間は、自分の体験の外にある物事に対して思考を巡らすことができない。というか興味がない。

もし世界のどこかで、内戦により沢山の人々が死んでいたとしても「そういうのは当地の政府がやることだろう?俺たちは知らん」という態度はどうだろうか?この100年前のロシアの農民と同じだ。そして100年後の現代でも、このような態度を取る人間はアメリカ大統領をはじめ枚挙にいとまがない(日本だと自衛隊の海外派遣の是非みたいな議論になり、本質から外れる)。

「思いやり」と言っては陳腐すぎ、仮定を元に、他人の身になって考えられる能力こそ教育の賜物であるというフリンの主張には救われた。長い教育など全く受けていない私は単なるバカであるのか?という思いが長年あったのだけど、少なくとも「教育の賜物」は自習self-taughtによって育まれたであろうことが理解できたからだ。

ちなみにピンカーの最新刊「21世紀の啓蒙」の概要を知るには著者自らのTEDトークを見ればわかる。

データで見ると、世界は良くなっているのか、悪くなっているのか?

そういえば今年はAmazon Kindleで「21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考」を買ったのだけど、2度は読み返さなかった。「サピエンス全史」はあんなに良かったと感じたのに、このネタ切れ感は何だろうか。
従って日本の出版社が勝手にまとめた「緊急提言 パンデミック」は、買わない。

今後も良い本に出会えますように。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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