現実逃避してたらボロボロになった話:さすがイースト・プレス、吾妻ひでお亡き今酒害を漫画で啓蒙できるのは永田カビしかいない
同出版社から出た前著「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」では、著者の大学中退後、フリーター生活で感じた社会と折り合いを付けることの難しさや両親との関係性に苦悩しつつも漫画家として生活できないか苦闘する姿を赤裸々に描いたエッセイ漫画の佳作だと感じた。その後、出版社を変えて小学館から出た「一人交換日記」は、少し読んであまり面白さが分からなかったので申し訳ないけど2巻目は買う気にはなれなかった。同じ著者であっても出版社が違うだけで、まるで違う印象になるのだと驚いた記憶がある。作家を活かすも殺すも出版社というか編集者の方針次第であると。
面白いエッセイ漫画を出版することで私の中で信頼のあるイースト・プレスから、また永田カビの漫画が出るとあっては買うしか無い。しかも著者は、私が見ない間になんだかアル中になっていたみたいだけど…?
イースト・プレス、アル中、漫画というと、吾妻ひでお「アル中病棟」が思い出される。
残念ながら吾妻ひでおは先ごろ亡くなったが、実体験にも関わらずどこか自分を客観視して、自身の人生を「漫画の取材」として一歩引いた視点で描いていた吾妻に比べて永田カビにそのような視点は無い。そこが読者を「このひと大丈夫かな?」と不安にさせる。ささくれだった印象だけど可愛らしい絵柄も、本作が一番魅力的だった。
本の前半部分は、なぜ自分が入院するまでに至ったのかについての短い説明があった後、入院生活から退院までが割とあっさりと描かれる。
漫画の中で著者は、もう実体験を元にしたエッセイ漫画は描かないつもりで体験をメモなどしていなかったせいか、「アル中病棟」に比べて淡白な印象を受けた。それは入院先の病院がアル中専門の精神病院ではなく、したがって著者と他の入院患者との関係性が希薄だったからだ。
後半は退院してからの飲酒、食事制限との葛藤、描いていた漫画が編集者からOKをもらえないこと、エッセイ漫画を描くかどうかについての悩みが続く。
呻吟した後、エッセイ漫画を描くことについて自分の中で腑に落ちたようで、この漫画を描くことになりました…というところで終わる。
本作で一番印象に残ったのはプロローグで、なぜ入院することになったのかが手短に語られているが、内容は結構壮絶で要はγ-GTPが1000を超える(基準値100以下)まで連続飲酒状態だったという。その支え?になったのが家の周辺に点在する居酒屋と24時間営業の居酒屋チェーンであり「眠れないと早朝、24時間営業居酒屋へ行って飲む」とか、「風と木の詩」リファレンスの台詞「僕を正気でいさせないで!」が当時の著者の心境だったというのだから、「シラフに戻りたくないから常に酔っていたい」の連続飲酒状態はアル中になる酒の飲み方であるので、この結果も仕方がないかと。
もし24時間営業のナントカ水産的な居酒屋が、一定数のアル中になることを助長しているのだとしたら深夜の酒類販売は規制したほうが良いと思った。
この漫画がうまく本としてまとまっているのは出版社、編集者のおかげなのではないか?作家を活かすも殺すも編集者次第だと思った一作でした。