面白かったのに、どこがだめなんだ?:ジェームズ・メイの日本探訪

Hiroki Kaneko
Dec 31, 2020

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BBC「トップ・ギア」の元司会者として有名なジェームズ・メイが大英帝国からAmazon帝国に鞍替えして日本探訪。全6回。私は楽しめたけど、どうも楽しめなかった人が日本人以外にもいたようで。

As an American, having lived in Japan (Tokyo) for over 2 years now, I found this “documentary” to be an embarrassment on the part of all Westerners. I yearn for a “documentary” where a Japanese, so called celebrity, goes to the UK and in many ways mocks their culture and, if even if unknowingly, disrespects in as many ways as this show does to Japan.

Amazonレビューより。「日本(東京)に2年以上住んだことのあるアメリカ人としてこの“ドキュメンタリー”は全ての西洋人にとって恥ずべきことだ。日本の“セレブ”とやらがイギリスへ行って彼らの文化を小馬鹿にする“ドキュメンタリー”でも作り、その番組が無意識のうちに多くの点を軽蔑したとしても私はそのような番組を切望する」といった意味のことが書かれていた。私の翻訳なので間違っているかもしれない。

メイ本人から言わせれば「文句なら監督に言ってくれ」だろう。メイが日本文化を馬鹿にする?別にどこも馬鹿にしていなかったけど。むしろ馬鹿にすべき「かなまら祭り」については「担いだエリザベス神輿が重い」くらいで特に面白いリアクションをしなかったのが意外だった。これが(トップ・ギアの)ジェレミーだったら絶対馬鹿にしていたのに。

かなまら祭りは伝統行事でもないし伝統は伝統だからという理由だけで無批判に尊重されるべきではない

だって、「かなまら祭り」なんて地元の日本人だって知らなかった奇祭で、ロンリー・プラネットあたりで書かれたのをきっかけに外国人観光客が面白がって盛り上げたようなものでしょう。それが彼はインドのヒンドゥー教のリンガとヨニでも見るような感じの反応だったじゃない。リンガだって3000年前のインドの「かなまら祭り」だったわけで。伝統は伝統だという理由だけで無批判に尊重されるべきではない。何年か前に親戚同士の新年会へ行ったら甥っ子が毛筆で「伝統を大切に」と書かれた紙が壁に貼ってあって、同じような事を言おうと思ったけど「何このオッサン」と言われそうなので止めた。
悪い伝統のことを「因習」と呼ぶ。しかしそこは宗教に関わるセンシティブな問題だったのでは?と出演者も監督も考えたのか?頭おかしいのか、スティール・ペニス・フェスティバルだぞ?あんなモン、宗教じゃねえよ。「クレイジー」の一言で終わりだろ。

屁こき

それより何より私が不快だったのは東京から九州まで付いてきたガイド役の日本人男だ。いちいち煩くてたまらない。「サムライの<さぶらう>は仕える、という意味です。私はあなたの下僕です」だとか、鬱陶しい。

ろくに日本語も知らないくせに外国人に嘘教えてるんじゃねえよ。昔の言葉の意味でいうと、ポルトガル人宣教師が書いた日葡辞書では「サブライ」は貴人nobleの意味で、「武士」は戦士warriorの意味だと書いてあるそうじゃないか。貴人は下僕じゃねえよ*1。

*1) と思ったけどWikipedia情報だとどうやら合っているみたいだ。失礼しました。お詫びして訂正します。

ネットで調べたら東京都知事選に立候補しては落ちている右翼政治家だった。香川県でうどん打ちながら屁こいた奴(エピソード6)が?「日本に原爆を落としてくれてありがとう(イギリス人だけど)」とでも言えばいいのに。中国人や韓国人とは仲良くしようと考えないくせに、白人には何をされてもウェルカムなんだな、奴隷根性。

対象的に、大阪でガイドをした日本人のはっちゃんは嫌味のない良い子だったので、彼女が大阪から西のガイドを担当すればよかったのに(エピソード5)。メイははっちゃんに「東京の人間は大阪を見下しているけどなぜだろう」と問いかけるのだけど、メイにはそう見えるのか…と興味深かった。ロンドンっ子はマンチェスターを見下すのか?
「大阪は東京の20年前みたいだ」と言ったのも印象的だった。

イギリスはもはや多文化社会になったことはエリザベス女王も認めるところだ。イギリス人の大好きな食べ物はインド発祥のカレーであり、日本人の大好きなラーメンは中国発祥だ。文化とはそうやって拡散してないまぜになっていくものなのに「A文化圏の人間がB文化を馬鹿にした」といちいち腹を立てることに何の意味があるんだ?お互いを尊重しろ?しなくていいよ。受け取るほうが、腹をたてるのを止めればいいんだ。「私とは関係ない」と言って。人間の誰一人として生まれる場所と親は選べない、というこの事実だけで「自分が偶然生まれた地域の文化と自分を同一視する」ことが理屈としておかしいことは分かるようなものだけど。それを猿の本能である部族主義が理性から遠ざけているのだな。

ふど

日本語版では原爆ドームの所の取材に色々とカットされているそうです。不要な編集だ。そういうのを、ふど、じゃなかった、忖度(そんたく)とかいうんじゃないのか?気持ち悪い。メイが原爆投下についてどのような意見を持っていようが、どうでもいい。アメリカ人の共通認識でいう「原爆投下は戦争終結を早めた」は、事実なのだから。
軍部にそそのかされて「いけんじゃね?」と思って戦争を始めた昭和天皇が、原爆投下に度肝を抜いたのは明らかだ。だからといって戦争終結を早めるために広島、長崎市民が大勢死んで良いわけではない。

この番組はドキュメンタリーなんかじゃない。笑わせなきゃ。お笑い番組なのだから、上記の「怒れる日本通アメリカ人の某氏」も、そこを分かってくれないと。メイ本人や編集の妙が見せる、少しシニカルなイギリスの笑いというのが、私は好きだ。この番組が「うまいもの食って、名所旧跡へ行くだけの旅行番組」だったらつまらないでしょう?

それでこそトップ・ギア魂だ!

アメリカ人の某氏は、岡山駅前に立つ桃太郎像の腰に挿してある刀の柄がメイにはどうにも勃起したペニスに見えて笑ってしまい解説ができない様子にお怒りのようだった。アメリカ人氏は「ストーンヘンジがおっぱいに見えて笑って解説できない日本人がいたらどう思う」的な事が書かれていた。別にどちらもいいんじゃないか。何でもシモネタにするのは「ジェレミーとその仲間たち」なのだから仕方がない。ジェレミーだったら像の柄の部分に「ペニス(ジェレミーが発音するところの“ピーニス”)」って落書きしてたね。メイは落書きをしないなんて、さすが紳士。桃太郎とかいう「非実在青少年」がどう笑われようが全くどうということはない。

面白かったんだけどなあ。私にとってはジェームズ・メイは「トップ・ギア」でおなじみの人だったし、あの番組でも大して面白いことを言わない彼が日本をどのように紹介するのか?について大変興味深かった。相手の文化を尊重云々に関しては、考えすぎでしょう。台本があるのだから。

そしてレビューの最後にアメリカ人氏は「お前は“スミマセン”ばかり言うがそれはexcuse meの意味でありI’m sorryと言いたいなら“ゴメンナサイ”と言え、誰か周囲の奴らが教えてやれよ」と日本語の講釈をたれて終わる。

大晦日にこんな記事を書いている私は馬鹿だと思う。2021年が全世界の皆さんにとって今年よりマシな年でありますように。

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Hiroki Kaneko
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Written by Hiroki Kaneko

自営業のソフトウェア技術者。Airbnb TOP5%ホスト。サイクリングと旅行が趣味。

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